弁護士 中森俊久の部屋

個人通報制度について

2016/11/16 10:29:11

 主な国際人権条約には、その条約を各国に守らせるため、①報告制度(締約国による報告書を条約機関が審査するもの)、②国家通報制度(他の締約国による条約履行状況の条約機関への通報。)、③個人通報制度(主として被害者である本人による人権侵害ケースの条約機関への申し立て。締約国の同意を必要とする任意的制度)が定められています。
 選択議定書(条約とは別に独立して作成される法的国際文書。条約の締約国は、選択議定書を批准するかどうか選択できる。)で個人通報制度を定める条約には「自由権規約」「社会権規約」「女性差別撤廃条約」などがありますが、日本政府はすべてにおいて批准していません(ちなみに、自由権規約の第一選択議定書が個人通報制度、第二選択議定書が死刑制度の廃止ですが、日本は第二選択議定書も批准していません。)。
大阪弁護士会選択議定書批准推進協議会は、国家による人権侵害を被害者である個人が条約機関に申立て、審査を受けることができる個人通報制度を定めた自由権規約第一選択議定書の批准推進を目的として活動をしています。先日は、同協議会座長の山下潔弁護士と私とで、69期司法修習生の選択型修習プログラム「人権擁護の現場から」のうちの国際人権の講義を担当してきました。
自由権規約の個人通報制度は、2011年7月20日現在114か国に及び、主要8カ国(G8)のうち、個人通報制度を全く利用できないのは日本だけという状況です。例えば、選択議定書を批准している韓国では、作品が「利敵行為」だとして画家が有罪判決を受けたケースで個人通報が行われ、自由権規約委員会は、その画家の表現の自由を侵害するとして、韓国政府に対して補償と再発防止を勧告しました。2006年まで20年間、国連の自由権規約委員を務めた安藤仁介・京都大名誉教授は「はっきりとした理由もなく、批准していないのは日本だけ。何かを言うような委員はいないが、ずっと恥ずかしい思いをしていた」と振り返っています(中日新聞2010年12月15日朝刊)。
条約は、憲法より下だが法律より上という位置づけにもかかわらず、弁護士によって主張されることも少なく、裁判所もそれを軽視した判決を出すことが多くあります。このように、日本で自由権規約などの条約が浸透しないのは、個人通報制度が日本では使えないということが大きな理由の一つだと考えられています。規約人権委員会は、代用監獄の弊害、在日外国人・朝鮮人等に対する差別、婚外子など女性に対する差別、死刑受刑者の処遇など様々な指摘を日本政府に対して行っていますが、この個人通報制度が実現されれば、それら日本の人権状況につき、国際人権条約の観点からの見解を問える道が開けます。以前にも当事務所のニュースで個人通報制度のことを書きましたが、改めて同制度の早期の実現を求める次第です。

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