弁護士 森野 俊彦の部屋

人吉温泉再訪

2015/08/01 00:00:18

 6月末、熊本市に出張する機会があったので、少し南にある人吉市に前泊し、温泉に浸かった。同温泉を選んだのにはわけがある。かれこれ35年も前になるだろうか、大分家裁で少年事件を担当していたとき、余罪審判で人吉農芸学院に出かけ、同市内の温泉に入ったが、そのときの気持ちよさが身体のどこかにずっと残っていた。
 おりから梅雨前線が活発で、熊本行きの飛行機も「条件付き運航」という引き返し覚悟のフライトであったが、無事到着。熊本からは昔はなかった九州横断特急に乗った。レトロでゆったりとした雰囲気に包まれ、窓の外を流れる球磨川を堪能していると、まもなく人吉着。駅舎などに往時の記憶はほとんどなく、宿へ急ぐ。宿に着くとすぐに入湯。湯に浸かって感じた。そう、この湯の感触。ちょうどよい温度、まろやかな湯ざわり。「まさにこの湯だ」といいたいけれども、そこまでいうと嘘になろう。でも本当にほっこりとさせる温泉で、小一時間ほど湯船につかっていた。湯から上がると、ビールのサーバーが目に入る。思わぬおもてなしに喜んだ他の客が何倍も呑んだうえ、私に「大将もいっぱいどうですか」と勧めてくれる。勧められた杯を拒むのは私の流儀ではない。つい杯を重ねてしまい、宿の夕食の前に既にしてほろ酔い気分になってしまった。
人吉にはもうひとつ確かめたいことがあった。犬童球渓の顕彰碑である。翌朝の散歩で、地図も見ず、おぼろげな記憶だけを頼りに人吉城跡付近を探してみた。なかなか見あたらず、宿に戻ってもう一度出直そうと思った途端、30メートルほど先にそれらしきものが見えた。足早に近づくと、はたして、犬童の顕彰碑だ。不思議と懐かしさがこみ上げ、ひと気がないのを幸いに、碑に彫られている「故郷の廃家」の歌詞に向かいながら、「幾年ふるさと 来てみれば 咲く花 鳴く鳥 そよぐ風」と口ずさんだ。
 そのときある思いにとらわれた。35年ほど前、この碑をみたとき、いつか再訪してこの碑に再会したいと思ったのでなかったのか。その証拠はなにもないが、確かにそう思ったような記憶がある。確かめる手立てはないけれど・・。

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