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原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書の調印

1 いわゆる被爆者援護法は、被爆者健康手帳を持つ被爆者の疾病にいて、被爆者の申請に基づき「原爆放射線に起因して、現在も治療が必要である」と判断すれば原爆症として認定し、医療特別手当を支給する旨規定している。しかし、国は、2003年当時、当時の被爆者約27万人のうち約2200人(0.81%)しか原爆症と認定せず、多くの被爆者による認定申請を却下してきた。
1枚の紙切れ(却下処分通知書)によって、人生そのもの否定されたような気持ちになった被爆者は、後世にその思いを伝えたく立ち上がった。2003年4月に札幌、名古屋、長崎の各地裁で原爆症認定集団訴訟が提起され、裁判は17の地方裁判所に広がりを見せた。そして、多くの被爆者が証言台に立ち、自らが体験した残酷な被爆の実態や生き残った複雑な気持ち、体調の変化等を詳細に述べ続けた。
 その後、2006年5月の大阪地方裁判所の原告9名全員勝訴に続き、現在に至るまで2回の大阪高裁判決、1回の仙台高裁判決を含む19か所の裁判所において連続して勝訴を重ねた。各裁判所は、現行の認定基準を「機械的に適用して判断することは相当ではない」「入市・遠距離被爆者を含めて、被爆状況や被爆後の行動経過などを総合的に考慮して判断すべき」と判示し、国の認定行政を非難した。遠距離被爆者や入市被爆者(原爆投下後に爆心地付近に入った者)が次々に訴えた脱毛や出血等の急性症状につき、国は「ストレスによるもの」として放射線の影響を頑なに否定し続けたが、被爆者が勇気を出して語った真実により、そのような詭弁が退けられたものである。そして、それら判決の積み重ねの中で、二度にわたる原爆症認定基準の改定を勝ち取ってきた。
2 2009年8月6日、麻生太郎首相は、内閣総理大臣及び自民党総裁として、日本被団協との間で、以下の内容の「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」に調印した。
(1)1審判決を尊重し、1審で勝訴した原告については控訴せず当該判決を確定させる。熊本地裁判決(8月3日判決)について控訴しない。このような状況変化を踏まえ、1審で勝訴した原告に係る控訴を取り下げる。
(2)係争中の原告については1審判決を待つ。
(3)議員立法により基金を設け、原告に係る問題の解決のために活用する。
(4)厚生労働省と被団協・原告団・弁護団は、定期協議の場を設け、今後、訴訟の場で争う必要のないよう、この定期協議の場を通じて解決を図る。
(5)原告団はこれをもって集団訴訟を終結させる。
 この確認書の調印は、集団訴訟の成果を踏まえて、原爆症認定問題の全面解決にむけての大きな前進であり、積極的に評価できる。しかしながら、係争中の未認定原告については大阪地方裁判所の判決を待つ必要があり、認定申請を行ったのに長らく放置されている約8000名の被爆者の認定についても、原爆症認定制度の抜本的改正や原爆症認定を行う医療分科会の改革を抜きには解決しないと思われる。つまり、上記の調印をもって、原爆症認定集団訴訟が全面解決したのではなく、未だ乗り越えなければならない多くの課題が存在するのである。
3 8月6日の調印式の日に公表された内閣官房長官談話では「本年8月3日の熊本地裁判決を含め19度にわたって、国の原爆症認定行政について厳しい司法判断が示されたことについて、国としてこれを厳粛に受け止め、この間、裁判が長期化し、被爆者の高齢化、病気の深刻化などによる被爆者の方々の筆舌に尽くしがたい苦しみや、集団訴訟に込められた原告の皆さんの心情に思いを致し、これを陳謝します。」と集団訴訟提起以来、初めて国から謝罪の言葉が述べられた。19回の勝訴判決までの間に、どれだけ多くの被爆者が亡くなってきたことか、何故より早く解決の道を探ることができなかったのか、被爆者の命をかけてのたたかいに対する国の対応として遅きに失すると言わざるをえない。
 バクラ・オバマアメリカ大統領は、本年4月5日のプラハでの演説において、アメリカは核兵器を使用した唯一の被爆国として行動すべき道義的な責任があるとしたうえで「核兵器なき世界への共同行動」を呼びかけた。前記官房長官談話でも「唯一の被爆国として、原子爆弾の惨禍が再び繰り返されることのないよう、核兵器の廃絶に向けて主導的役割を果たし、恒久平和の実現を世界に訴え続けていく決意を表明いたします。」と述べられている。核兵器廃絶のリスクや現実性につき、評論家の方々があれこれ議論するのを聞いたことがある。しかし、平和の維持は理屈だけでは達し得ない。唯一の被爆国として出来ることはないか、その役割を謙虚に探るべきである。被爆者の話に真摯に耳を傾け、唯一の被爆国として責任ある被爆者行政が行われることを願ってやまない。

弁護士 中森俊久

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第27号(2010/1/1発行)より転載

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