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裁判員裁判制度

1 裁判員制度がスタート
5月21日、裁判員制度が始まった。殺人などの一定の重大犯罪のみを対象とするものの、否認事件の事実認定のみを対象とするアメリカの陪審制度とは異なって、自白事件も含み、しかも事実認定のみならず量刑も判断対象とするため、裁判員の負担は相当に大きい。今回は、裁判員に選ばれた方の守秘義務に絞って、少し考えてみたい。
2 裁判員の職務と裁判員の守秘義務
 裁判員に選任された方は、(1)法廷における「公判」に立ち会って証人尋問や被告人質問等を行い、(2)評議室にて、公判に現れた証拠をもとに事実認定(有罪か無罪か)や量刑について「評議」を行い、最後に「評決」を行って被告人の処遇を決定し、(3)法廷で裁判長が行う判決の宣告に立会う。
 このような裁判手続中はもちろん、裁判終了後も、裁判員は、(1)評議における具体的やりとり(誰がどんな意見を述べたか)などについての「評議の秘密」及び(2)被害者や裁判員の名前などのプライバシーに関する事項など裁判員としての職務上知った秘密について、外部(家族も含む)に漏らしてはいけないという守秘義務を負う。これが裁判員の守秘義務である。
 「魔女裁判」などの最近のTVドラマでも題材とされているように、裁判員の誰がどんな意見を述べたかなどが外部に分かってしまうと、裁判員への不当な干渉のきっかけとなり、場合によっては裁判員やその家族を危険にさらしかねない。そのような危険があれば誰も公正な意見など言えなくなってしまう。
 その意味で、裁判員の守秘義務は、裁判員やその家族の安全確保ひいては公正な裁判の確保のために必須の制度である。
3 裁判員の守秘義務の範囲
 世論調査などを見る限り、裁判員の守秘義務について、「関わった裁判に関する事は一切何も話してはいけない」という義務だと理解している方がかなりおられるようである。
 しかし、これは誤解である。裁判員が守秘義務を負うのは前述の(1)評議の秘密及び(2)裁判員としての職務上知った秘密についてであって、それ以外の、公判において見聞した事実や判決内容について守秘義務は負っていない。また、評議の秘密についても、具体的やりとりなどを公表したりせずに、単に評議について感想を公表するだけならば守秘義務には反しない。
 裁判員制度は、始まったばかりの制度であり、少なくとも現時点では欠陥だらけの制度である。誤判を防ぐためにも、今後改善を重ねることが必要であり、改善を重ねるためには、実際に裁判員を経験した方が、感じた問題点を外部に公表することが必要である。そうでなければ、外部の人間は問題点を知ることができず、議論すら出来ないからである。その意味で、裁判員に選任される可能性のある方には、少なくとも、感想を話すことは守秘義務に反しないこと、そして、制度改善のために積極的に感想を話して問題点を公表すべきであることは知っておいていただきたく思う。
4 最後に ~ 弁護士の守秘義務
 ところで、我々弁護士は、刑罰及び懲戒処分に裏打ちされた非常に厳格な守秘義務を負っている。弁護士が秘密を守ると信頼して下さるからこそ、依頼者の方は全てを話して下さるのであり、全てを話していただけるからこそ最良の解決策が見つかる。弁護士が厳格な守秘義務を負うことは当然であり、依頼者の方に最良の解決策を提示し支援したいと考えて弁護士になっている以上、弁護士には最初から守秘義務の負担に対する覚悟がある。
 これに対して、裁判員の方は、裁判員になりたいと思って裁判員となるわけではない。突如として一方的に裁判員に選ばれ、普段の生活とはかけ離れた重大事件の審理で精神を疲弊させるのである。裁判員の方にとって、裁判は異常事態なのであり、その体験を他人に話したいと考えるのは自然なことだと思う。にもかかわらず一方的に刑罰の制裁を伴う重い守秘義務を課されるのである。弁護士の場合と異なり、裁判員の方にとっては、守秘義務は当然の負担とはいえない。守秘義務自体は必要ではあるが、裁判員の方にとってあまりにも大きすぎる負担とならないよう、守秘義務の範囲を安全確保及び公正な裁判確保という目的達成のために必要最小限度の範囲のみに絞る必要がある。
 この点、現在の裁判員の守秘義務は範囲が不明確な部分も多く、まだまだ範囲が広すぎるように思う。極力早期に範囲を明確にしていき、絞り込みをかけていかなければならないだろう。

弁護士 瓦井剛司

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第26号(2009/8/1発行)より転載

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