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新嘉手納基地爆音訴訟 控訴審の結審を迎えて

1 新嘉手納基地爆音訴訟とは
 沖縄に嘉手納米軍飛行場(通称「嘉手納基地」)が存在することはご存知だろうか。嘉手納基地は嘉手納町、沖縄市、北谷町、及び那覇市の二市二町にまたがって存在する極東最大の米軍基地である。その面積は、約1995万平方メートルと広大である。
 この嘉手納基地において、米軍機が日々、昼夜に亘って離着陸訓練を繰り返し行い、周辺上空を飛行している。航空機騒音のうるささは、通常WECPNL(W値。「うるささ指数」ともいわれる)という指標を用いる。嘉手納基地周辺では、最も大きいところではW値95以上に及ぶ世界でも類を見ない程度の激烈な爆音が記録され、周辺住民は聴力損失等の健康被害、睡眠妨害、生活妨害、墜落の恐怖など深刻な被害を受けている。
 昭和57年2月26日、沖縄の本土復帰10年を契機として、深刻な爆音被害に日々苦しめられてきた嘉手納基地周辺の住民が、国に対し、夜間・早朝飛行等の差止と損害賠償を求め、那覇地裁沖縄支部に訴訟を提起した。この旧訴訟は、平成10年に福岡高裁那覇支部で控訴審判決が出されて確定した。その内容は、米軍機の飛行差止は認めないが、W値75以上の騒音は受忍限度を超える違法な権利侵害であることを認め、国に損害賠償を命じるというものであった。
 そして、平成12年3月、更なる被害救済の拡大と夜間早朝の飛行等の差止を求め、嘉手納基地周辺住民が、今度は原告数5541名で再び那覇地裁沖縄支部に提起したのが新嘉手納基地爆音訴訟である。

2 新嘉手納基地爆音訴訟の
 一審判決と控訴審
 平成17年2月17日、新嘉手納爆音訴訟の一審である那覇地裁沖縄支部は、「夜間早朝の飛行差止請求棄却、W値85未満の地域に居住する原告らの損害賠償請求棄却」という判決を言い渡した。
 この判決は、周辺住民の切実な願いである騒音の差し止めについて実質的判断に入ろうとさえしなかったばかりか、損害賠償についても、W値85以上の地域のみ認容し、これまでの各空港基地訴訟でも違法性が認められてきていたW値80・75の各地域についての損害賠償請求すら認めなかった極めて異例の不当判決であった。
 これに対し、原告団及び弁護団は、夜間早朝の飛行をやめてもらうというささやかで極めて当然の要求と、W値80・75の各地域に居住する原告に対する損害賠償を勝ち取るべく、怒りをもって控訴審において闘いを重ねてきた。
 そして、控訴から約三年半が経過した平成20年10月1日、上記闘いの場である控訴審が、ついに結審を迎えたのである。

3 控訴審における主な立証
 控訴審においては、W値85未満地域の原告710世帯のうち約七割に相当する約500通の文書式の陳述書を提出し、W値85未満の地域の住民が、深刻な被害を受けていることを改めて裁判所に突きつけた。
 それだけでなく、一九名の原告本人尋問、現地進行協議(事実上の検証)、疫学の専門家証人の尋問等、極めて多角的かつ重厚な立証を行ってきた。
 特に、二日間にわたり実施された現地進行協議では、米軍機が原告住宅の真上・低空を爆音を轟かせながら通過していく状況を見た裁判長が、「これはひどいな」と漏らしていたのが印象的であった。

4 終わりに
 私が、この弁護団に加入する契機となったのは、「道の駅かでな」から見た嘉手納基地飛行場とそこで米軍機が繰り返し飛行訓練を行っていることの異様さを目の当たりにした体験であった。
 そして、現地進行協議で体感した爆音もまた激烈であり、それを体験してからは原告の方々の語る爆音状況とそれによる苦痛につき、以前とは違う響きをもって受け止めるようになった。
 しかし、これほど酷い被害状況を生み出している嘉手納基地の問題について、政治でも報道でも日常レベルでも、本土では語られることがほとんどないことに、大阪の人間として改めて驚かされている。
 嘉手納基地をはじめ基地問題は国民全体の問題であるはずであるし、本土の人間を含めた国民一人ひとりの問題であるはずである。基地周辺住民にのみ被害を押しつけたまま、我々国民は構造的な無関心と無知により、何も語らないまま構造的加害者となっているのではないかというのが率直な感想である。
 周辺住民が受けている被害状況を知ってもらえれば、私が心を動かされたのと同様、本土の人々の心も動かすことができるはずである。そうであれば、今後は、広く国民に被害状況を知ってもらうのもこの問題に関わる弁護士として重要な仕事となるのかもしれない。
 控訴審判決は平成21年2月27日に予定されている。原告らの長きにわたって被ってきた苦痛と、静かな夜を取り戻したいという祈りにも似た叫びが裁判所の人としての心を動かし、人権の最後の砦として血が通った判決が下されることを切に願っている。
 

弁護士 立野嘉英

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第25号(2009/1/1発行)より転載

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