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えっ! 労働時間がなくなるの? ─「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入に反対の声を!─

1 今、大変な制度が導入されようとしている。それは、年収など一定の要件を満たす労働者について、労働基準法の定める労働時間の規制から外してしまうという制度である。アメリカの制度である「ホワイトカラー・エグゼンプション」を日本でも取り入れようとするもので、「新・適用除外制度」とか「自律的労働時間制度」などと呼ばれている。対象となった労働者には、「定時」とか「残業」という概念そのものがなくなる。極端な場合三日間不眠不休で仕事をしても、それは労働者が「自律的」に行ったものになってしまうのである。「ホワイトカラー」という言葉が使われているが、その定義は明確でなく、時間賃金で雇用されるパートなどを除いて、多くの労働者がその対象となり得る。

2 現在の労働基準法は、「労働者が人たるに値する生活を営むため」の「最低の基準」として、労働時間の最高を一日8時間、週40時間と定め(1条、32条)、労働者の過半数を組織する労働組合又は労働者の過半数の代表者との間で「時間外協定」(36条)を締結しない限り時間外労働を禁止するとともに、仮に時間外労働をさせた場合は所定の割増賃金を支払わなければならないとされている。この規制を外すというのは、労基法の保護の対象外にすることを意味する。

3 事の発端は、2005年6月、日本経団連(日本経済団体連合会)が「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」を発表したことに始まる。そこでは、年収400万円以上の労働者が対象とされている。その後、小泉内閣の「規制改革・民間開放推進3か年計画」への取り入れ、厚生労働大臣の私的諮問機関である「今後の労働時間制度に関する研究会」の意見書発表を経て、06年2月から、厚生労働大臣の正規の諮問機関である労働政策審議会の労働条件分科会で審議が行われている。厚労省としては、年内にも建議をまとめ、2007年の国会に法案として提出したいとの意向である。

4 経団連の提言は、「仕事と生活の調和を図るため、多様な勤務形態の中から、効率的で自らが納得できる働き方を選択し、心身ともに充実した状態で能力を十分に発揮することを望んでいる者も少なくない」からだという。そして、「このような効率的な働き方は、結果的には総労働時間の短縮に繋がる」としている。 しかし、果たしてそうであろうか。リストラによる正社員の減少、雇用不安と厳しいノルマ、企業活動の24時間化、労働組合の弱体化などの結果、とりわけ正社員の労働時間は長時間化し、30代男性の4人に1人は週60時間以上働いているといわれる。「サービス残業」が蔓延し、全国の労働基準監督署が指導して支払わせた残業代だけで年間200億円を超え、過労死や精神疾患、過労自殺が激増している。このような状態で、「最後の歯止め」である労働時間規制を外してしまったら、いったいどうなるのであろうか。まさに、「無制限労働強制法」、「過労死促進法」である。いま必要なのは、労働時間の規制緩和ではなく、逆に、労働時間の厳格な規制である。

5 厚労省は、当面は年収1000万円以上の労働者を対象とする、あわせて健康確保措置を講じるなどとしているが、労働者派遣法の成立のときもそうであったように、最初は高いハードルで導入されても、その後徐々に広げられていくことは間違いない。経団連の「提言」にある年収400万円以上となると、正社員の半数以上が対象となるのである。「健康確保措置」を持ち出すこと自体、この制度の危険性を物語っている。死なない程度に、ギリギリまで働け、ということである。まるで人間をロボットや奴隷のように考えている。

6 このように、今回の経団連や厚労省の企みは、「労働者の憲法」ともいうべき労働基準法の根本的な改悪であるが、まだまだ多くの人はそのことを知らない。一人でも多くの人たちに、この制度の危険性を知らせていきたい。

弁護士 岩城 穣

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第21号(2007/1/1発行)より転載

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