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「過労自殺」に新労災認定基準

一 「いずみ」第7号(98年2月)でも触れたが(→こちら)、ここ数年自殺が激増している。警察庁の発表によれば、98年中の自殺者の数は、前年の2万4000人台から3万2000人台へ、一気に35%も増加した。厚生省が公表した「1998年簡易生命表」では、男性の平均寿命が前年に比べてダウンした。これは男性の自殺者の増加が男性の平均寿命を押し下げたからだと言われている。
 職業別内訳では自営業者や学生生徒のほか、管理職や被雇用者が激増している。動機別では「経済生活問題」が7割増の6000人、「勤務問題」が1200人となっている。
 これらのうちには、業務上のストレスなどによりうつ病になって自殺する過労自殺が、少なくとも1000人以上含まれていると推測される。

二 このような自殺の激増と、過労自殺にも労災認定の道を開くべきだという世論の高まり、過労自殺を労災と認めた飯島事件の長野地裁判決など判例の動向などを受けて、労働省は昨年9月、自殺についての初めての認定基準を制定した。また、国家公務員、地方公務員についても、ほぼ同様の通達が出された。

三 労働省の新認定基準によれば、自殺が労災と認められるための要件は、
1 うつ病等の精神障害を発症し、自殺を図ったこと
2 発症前おおむね6ヶ月の間に客観的にその精神障害を発症させるおそれのある業務による強い心理的負荷があったこと
3 業務以外の心理的負荷、及び個体側要因によりその精神障害を発症したと認められないこと
 である。

四 このような認定基準が制定されたこと自体は、自殺に労災認定の道を開くものとして、ある程度評価できる。
 しかし、その判断要件の運用基準は、極めて技術的で、かつ厳しいものになっている。例えば、最も多い「勤務・拘束時間の長時間化」「ノルマが達成できなかった」「出向・左遷」「仕事状の差別、不利益取扱い」「上司とのトラブル」といった事情だけでは業務上認定は難しいことになっている。また、負荷の「客観性」を要求されることから、ややもすれば「客観的にはそれほどでなく、本人の精神的な弱さという個体的要因が大きかった」と判断される可能性が高い。

五 しかし、脳や心臓疾患による過労死の場合と同じく、「客観性」を強調するのは問題であり、負荷の強度の判断は、あくまで「その人」を基準になされるべきである。現在の企業社会における身体的疲労や精神的ストレスは極めて強く、これにさらされ続けているとその人の弱い部分が破綻する。それが脳や心臓など循環器系に出るか、ぜん息などの呼吸器系に出るか、精神(こころ)に出るかという問題だからである。

六 過労自殺は、特に20代、30代の若い人に多い。悲劇を生まないために、企業も労働者も「こころの健康」にもっと敏感になる必要がある。また、労災補償制度の原点に立ち返り、過労自殺の労災認定を更に広げて行きたい。
 

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弁護士 岩城 穣

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第10号(2000/1/1発行)より転載

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