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学校給食の民間委託とPTAの役割

 弁護士としての業務と直接の関係はないが、一昨年4月から地元の堺市の小学校のPTAの会長になって2年目を終えようとしている。その中で、昨年秋から給食の民間委託問題が突然浮上し、これに深く関わることになった。

一 98年10月1日、堺市は突然、90校ある市立小学校の学校給食の調理業務を99年4月から順次民間委託化していくことを発表した。10月21日、PTA役員を対象に開かれた「保護者説明会」は、民間委託導入を前提とし、かつ、高齢化した市の調理員の人件費コスト削減という「メリット」だけを強調するものであった。教育次長は「給食は市の経営する一つの事業だから、その具体方針は我々が決定する」と断言した。

二 私たちは強い危機感を持ち、役員の有志で、これまでつながりのなかった市内の全PTAの役員に呼びかけ、11月18日、43校184名の役員の連名で、(1)学校ごとの保護者説明会の開催、(2)民間委託についての十分な資料の提供、(3)大多数の保護者の声を聞いたうえでの決定、の三点を求める要請書を市長・教育長・市議会に提出した。しかし、これに挑戦するかのように翌11月19日、市教委は民間委託化を正式決定し、同時に初年度の委託対象校17校を一方的に発表した。対象校の保護者はもちろん、学校長にさえ事前に知らされていなかった。

三 このような中で、私たちは12月13日、約160名の参加のもとにシンポジウム「激論!給食民間委託」を開き、その場で「学校給食のあり方を考える堺市PTA有志ネットワーク」を結成した。その一致点は、民間委託即反対というのではなく、ことは子どもの教育と生命に関わる問題なのだから、十分な情報提供と議論を踏まえ、保護者の同意を得て決めるべきだということである。ネットワークでは、各学校での保護者の取り組みを交流しながら、全市会議員へのアンケートなどを計画している。
 私の小学校のPTAでも、全保護者に「要望書」の提出を呼びかけ、寄せられた8割近い保護者の意見を市教委に提出した。私たちの小学校は初年度の対象校からは外されたが、いずれ対象校となることは間違いない。そこで、保護者の総意を表明するため、この夏までにこの問題について賛否を問う「保護者投票」を検討している。

四 保護者の多くが感じている主な不安、疑問は、まず第1に、堺市は96年、病原性大腸菌O―157の給食による集団感染で3人の死者を含む1万人もの被害者を出しを出した市であるということである。、現在でも200名以上が給食を受け付けないなど、未だに多くの子どもたちの心と体に傷跡が残っている。裁判で市は責任を認めておらず、O―157の被害の原因とされる食材の一括購入についてもほとんど改善は進んでいない。
 第2に、学校給食を「教育の一環」と位置づける学校給食法、「子どもの最善の利益の尊重」を義務づける子どもの権利条約の理念に反するのではないか、という点である。
 第3に、調理業務の民間委託は法的に「請負い」か「人材派遣」かという問題である。前者であれば教育委員会や学校長に現場での指揮監督権はなく、後者であれば一定の場合を除き原則として労働者派遣を禁ずる職業安定法44条、労働者派遣法4条に違反する疑いがある。
 第4に、何よりも安全面の問題である。限られた委託費の範囲内で利潤を上げようとすれば、低賃金で入れ替わりの激しいパート調理員の増加が予想されるが、市や学校長に人事権はない。
 第5に、万一事故が起こった場合の補償責任の問題である。O―157の被害の出た堺市では、とりわけこの点に関心が高い。請負いの場合法的責任を負うのは受託業者であり、市が法的責任を負おうとすれば連帯保証の形を取らざるを得ないが、その点の明確な説明はない。

五 学校給食の民間委託は、遡れば臨調行革路線に基づいて85年1月に出された文部省体育局長通達に端を発したものであるが、96年度の統計でもまだ全国で7.4%である。しかし、近時の自治体の財政難の深刻化のもとで、各地で改めて浮上しつつある。O―157で大きな被害の出た堺市で民間委託が導入されることになると、民間委託化の全国的な流れが一気に加速する可能性がある。財政難のツケをこのような形で子どもたちにしわ寄せしてよいのかが、今厳しく問われている。

六 それにしても、このような市民的運動に関わってみて、当事者や市民の声を聞かない行政がいかに強引で、不合理かということを痛感する。神戸空港や諫早湾、吉野川可動堰などの問題に取り組む市民たちの悔しさがよくわかる今日この頃である。

 ※なお、上記の記事にある「保護者投票」の結果についての投稿が、「学校給食ニュース」のホームページに掲載されています。(2003年9月1日記)

弁護士 岩城 穣

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第9号(1999/3/23発行)より転載

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