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「自殺過労死」に正当な補償を!

一 バブル経済崩壊以降、出口の見えない不況が続くなか、リストラや倒産、ノルマの重圧などによる仕事のストレスや悩みのために自殺に追い込まれる労働者が増えている。私たちはこれを「自殺過労死」または「過労自殺」と呼んでいる。
 警察庁の統計によると、1990年に2万1346人であった年間の自殺者の数はその後毎年増加し、96年には2万3104人となった。うち勤務問題が動機で自殺した件数は1991年の992件から96年には27%増の1257人となり、さらに勤務先で自殺した人は1990年の225人から96年には56%増の352人に達しているのである。

二 97年10月18日、私たちも参加する過労死弁護団全国連絡会議の主催による「自殺過労死110番」の電話相談が、全国13都道府県で一斉に行なわれた。
 大阪では私たち「大阪過労死問題連絡会」が取り組んだが、午前10時から午後3時までの相談受付時間中に42件もの相談が寄せられ、全国では141件に達した。
 内訳は、自殺が11件(死亡7件、未遂2件、予防2件)(全国59件)、過労死15件(死亡3件、障害3件、予防9件)、その他が9件であった。
 大阪での特徴的な相談事案としては、次のようなものがあった。
(1)上場メーカー課長。かねてから上司に不正経理を指示され、転勤願いを出したが受け入れられず、職場で首つり自殺。
(2)大手企業新人社員。会社の慰安旅行の余興で屈辱的な出し物を強要されることを知り、それを苦に飛び降り自殺未遂。足を骨折し、入院1ヶ月。結局自己都合退職に。
(3)メーカー勤務。上司や同僚が辞め、仕事がすべて自分に回ってきた。「自分が行かなければ仕事にならない」と休日返上。過労がつのり、入水自殺。
(4)私鉄技術士。阪神大震災後半年で自殺。交通関係の技術者。労災申請中だが1年以上結論が出ていない。
(5)上場企業経理担当。上司の使い込みの隠ぺい工作を命じられ、思い悩んだ末に自殺。

三 このように、過重な業務や精神的ストレスでノイローゼになり発作的に死を選んだり、仕事に行き詰まり悩み抜いた末に自殺したような場合は、業務上の死亡すなわち労働災害として、当然補償がなされるべきである。
 しかし、これまで労働省は自殺の労災認定についての明確な認定基準を公に示していなかったため、過去に過労性・ストレス性の自殺が労災として認定されたのはわずかに3件に過ぎなかった。

四 過労による自殺が増加するなか、96年から97年にかけて次の2つの事件で画期的な判決がなされた。いわゆる電通事件と神戸製鋼所事件である。
 電通事件とは、入社後1年5ヶ月で自殺した電通社員(当時24歳)の両親が、会社に対して損害賠償請求した事案で、東京地裁は96年3月29日、社員の長時間労働による過労と自殺の間に相当因果関係と会社の安全配慮義務違反を認め、過失相殺なしの総額1億2600万円の損害賠償を会社に命じた(→1審判決はこちら)。これに対して会社側は控訴し、家族との人間関係に問題があったとか、恋愛で悩んでいたなどと主張したが、東京高裁は97年9月26日、3割の過失相殺を行ったものの、長時間・過密労働と自殺との相当因果関係を認め、総額8900万円の損害賠償を認容したのである(→控訴審判決はこちら。その後の最高裁判決はこちら)。
 神戸製鋼所事件とは、入社した年の12月にインドに2ヶ月の出張を命じられた社員(当時24歳)が、ストレスにより「うつ病」ないし「うつ状態」になり、赴任から1ヶ月半後に宿泊していたホテルの自室窓から投身自殺した事案で、神戸地裁は96年4月26日、加古川労基署長の不支給決定を取り消し、この自殺を業務上の死亡と認定した(→判決はこちら)。

五 この2つの判決により、自殺過労死についても労災補償や企業責任が認められる可能性が大きく広がるに至ったといえる。そして、労働省は自殺過労死の労災認定基準を制定するための準備に入ったとされている。
 このような判決や世論を受けて、97年12月3日、過重業務の末に本社の10階から投身自殺した飛島建設の28歳の社員の事案(永山事件)について東京中央労基署が、また、同月25日、同じく職場で首つり自殺したオタフクソースの24歳の社員の事案(木谷事件)について広島中央労基署が、それぞれ業務上の認定を行なった。しかし、他方で木谷事件と同じ12月25日、入水自殺した日立造船舞鶴工場の46歳の設計技師の事案(下中事件)について、舞鶴労基署は業務外の決定を行っている。これらの決定は、労働省本省が相当な政策的判断のもとに行ったものと考えられる。
 このように、自殺過労死の労災問題は、現在大きな展開の局面を迎えており、今後、粘り強い労災申請の取り組みと、労働者の立場にたった認定基準の制定を求める運動が求められている。

六 しかし、ひるがえって考えると、たった一つしかない自分のいのちと愛する家族を捨てて自らのいのちを断つほど馬鹿らしいことはない。それをさせてしまうほど、現在の日本の「企業社会」の労働者支配は強いのである。
 最近、「全国過労死を考える家族の会」が、「いのちより大切な仕事って何ですか」という手記集を出版した。私たちは、もう一度自分のいのち、家族、仕事を見つめなおしてみる必要があるのではないだろうか。

 ※ 右の書籍は、一般書店でも販売していますが、当事務所でも取り扱っていますので、ご希望の方はお申し出下さい。

弁護士 岩城 穣

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第7号(1998/2/10発行)より転載

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