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従業員の「いのち」の代償を会社が取得してよいのか ─ 団体定期保険問題について

 一 「団体定期保険110番」の大きな波紋
 96年11月15日、全国17ヶ所で「団体定期保険110番」が行われた。事前のマスコミ報道のほか、前日に「ニュースステーション」で取り上げられたこともあって、全国で電話が殺到した。大阪では私も関わっている大阪過労死問題連絡会が2本の専用回線で相談を行ったところ、午前10時の開始前から電話が鳴りやまず、一日で相談件数は113件に達した(うち団体定期保険の問題が85件、過労死・労災関係が10件、その他が18件)。全国では271件、うち団体定期保険についての相談が186件であった。恐らくこの数倍は掛かっていたが繋がらなかったと思われる。
 相談内容は、例えば「会社は4800万円も受け取っているのに、死亡退職金はわずか430万円だった」「会社に死亡診断書を何通か提出させられ、保険金が会社に支払われたようだが、保険会社も保険金額も教えてもらえない」など、深刻な実態が明らかになった。
 この「110番」の結果を受け、私たちはこの問題についての説明会を行うことにし、電話相談してきた人々に再度案内も出して、改めて12月11日「団体定期保険についての説明会」を開催した。
 当日は約40名もの方々が参加され、この問題を早くから取り上げてきた名古屋の水野幹男弁護士と、某大手厨房機器会社を相手に現在裁判を行っている原告の女性にお話をしてもらったうえで、活発な質疑応答がなされた。その後希望者には個別相談を行い、既に数件については保険関係の調査や企業との交渉が開始されている。

 二 問題の所在
 団体定期保険には「Aグループ保険」と「Bグループ保険」と言われるものがあるが、主として問題となっているのは「Aグループ保険」である。これは、会社等の法人が役員や従業員を被保険者として保険会社と契約を結び、被保険者が死亡すると法人に保険金が支払われるというもので、現在4社のうち3社はこの保険に加入していると言われている。
 生命保険の大原則として、被保険者の同意が必要であるが(商法674条1項本文)、この団体定期保険の場合、労働協約や就業規則・社内規定、口頭による説明、労働組合や従業員代表に対する通知などがあれば「同意」があったというルーズな扱いがされており、被保険者である労働者は加入の有無や保険金額さえ知らない場合が多い。そして保険金請求には被保険者の死亡診断書が必要であるが、会社は適当な理由をつけて遺族から交付させたり、遺族の同意があると嘘を言って病院から交付を受けたりして、多額の保険金を受け取っている実態があるのである。
 この問題は水野弁護士が、過労死の労災訴訟に取り組む中で明らかになってきたもので、同弁護士が数年前から問題提起し続けてきたものである。会社が受け取った保険金を遺族が引渡し請求できる根拠については様々な理論構成が試みられているが、いずれにせよ会社が従業員のいのちの代償ともいうべき保険金を丸取りすることの社会的な不当性は明らかである。昨年4月26日には、青森地裁弘前支部で初めて遺族への全額支給を命じる判決が出ており(判例時報1571号132頁)、和解や調停で解決する例も多く出てきている。

 三 今後の取り組み
97年1月7日、名古屋でこの問題に取り組む弁護士の会議が行われた。
 大阪では、私たちが中心になって、近日中にこの問題についての研究会を作り、調査や会社との交渉、調停、訴訟などを積極的に行っていく予定である。
 当面、2月28日には全国一斉調停申立、翌3月1日には第2回全国一斉の「110番」電話相談が予定されており、大阪でもこれに呼応して取り組みたいと考えている。
 この問題は、労働者を過労死するまで働かせたり、サービス残業をさせたりする問題と共通の土壌、すなわち従業員に人間としての尊厳を認めず、企業の所有物のように扱う現在の企業社会から発生しているといえる。
 本格的な取り組みはまだ始まったばかりだが、遺族には泣き寝入りせず相談してもらいたいし、労働組合ももっとこの問題を取り上げていってもらいたいと思う。

弁護士 岩城 穣

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第5号(1997/3/15発行)より転載

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