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代理人弁護士の心証形成の仕組み

 弁護士になって六年が経過したが、悪戦苦闘の連続といってよい。特に、依頼者の話から、紛争の実相を認識、把握する仕組みは、当然ながら、裁判官の仕事とはかなり違い、戸惑うこともしばしばある。弁護士は、依頼者から約九〇センチ幅の机を挟んで直接に話しを聴くが、その内容は事案の核心だけにと どまらない。紛争に至るまでの道行きから始まり、その背景、紛争にかける思い、これまで歩んできた人生の節目節目の出来事、家族の状況、自らの性格や好き嫌いまで、時間の制約はあるにせよ、思いのたけをじっくりと聴くことになる。その結果、依頼者の拠って立つ地面と同場所を数十メートル掘り下げた地下の相当部分まで、掌握することが可能となる(もちろん依頼者の言うことがすべて真実とはいえないがまずはそうであろう考える。)。しかしながら、相手方当事者については、その情報は基本的にはこちらの依頼者を介してしか得ることができない。他方、裁判官は、双方の当事者からそれぞれ情報を得るが、それは代理人弁護士が調理のうえ出してきたものであるから、事実としては地表面に限定されるか せいぜい地下一、二メートルの範囲のものにすぎない。しかし一方で、裁判官は、職業柄、当事者の一方に偏することなく双方の主張立証をあくまで公平に扱い、確からしい事実を積み上げて、真相を見つけ出そうとする。多くの場合、間接事実を吟味するにせよ、事案の深層まで探求することなく、争点に対する「確からしい」心証を抱くと、あとは検証的な検討や吟味をなすが、心証自体が大きく揺らぐことは少ない。ところで、憶測であるが弁護士は、依頼者の当初の聴取りで得た心証を大きく変更させることはあまりないのではないか。依頼者が客観的事実に明らかに矛盾することを述べた場合は別として、少なくともそれに沿う証拠が形式的にあれば、また仮にそうした証拠がなくとも依頼者自らがその真実性を強く訴えれば、そのような事実があるものとして事を運んでいく。なぜなら、依頼者は弁護士にわらにもすがる思いで助けを求めてきた者であるから、その言い分をむげに排斥することはできないのである。 つまりその時点で、程度の差はあれ、ある種のバイアスが弁護士にかかり、そうした目で事案をみてしまうから、裁判官とは心証形成 の出発点が違うのである。こうした考えに異論があるのは承知している。弁護士も、裁判官のような心証形成を行うべきだというのである。実は、私もこれまで裁判官と弁護士で心証の違いはあってはならないと考えてきたのだが、最近、少し疑問を抱くようになった。どちらが正しいか、この短文で結論を出すのは早計すぎるようだ。

弁護士 森野 俊彦

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第45号(2019/1/1発行)より転載

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