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全面勝訴判決を得ました!!~専門学校生の自死事件~

 いずみ37号で報告をしました理学療法士養成の専門学校に通っていた専門学校生が臨床実習中の平成25年11月30日に自死をした件の損害賠償請求事件の判決が平成30年6月28日にありました。大阪地方裁判所第22民事部(北川清裁判長、中出暁子裁判官、宮崎徹裁判官)は、亡くなられた大野輝民さんが通っていた近畿リハビリテーション学院を運営する医療法人髙寿会及び実習先であった辻クリニックを経営する医療法人一裕会ら両被告に対して、原告が請求をした 「6125万1000円」全額を連帯して支払うことを命じました。
  大野さんは、平成22年、近畿リハビリテーション学院に入学、平成25年11月から辻クリニック(大阪市住吉区)で実習を受けていました。 大野さんは社会人経験を経て、一生続けられる人の役に立つ仕事ということで理学療法士を目指し、一所懸命に技術・知識の習得に努めていました。
 ご遺族は、大野さんが専門学校での最終学年時に、実習先のクリニックで受けたいわれなき叱責、意図的な無視、衆人面前での罵倒等に苦しみ、さらに膨大なデイリーレポート(宿題)に連日追われ、心身を疲弊し自死に至ったとして、被告らに対し安全配慮義務違反等に基づく損害賠償請求を命日の直前にあたる平成26年11月28日に大阪地方裁判所に提訴しました。
 判決文は全体で100頁、裁判所の争点に対する判断という判決の中心部分がおよそその3分の2という大部に及ぶもので、その分量からも裁判所が真正面から真摯な判断をされたことが窺えるもので、限られた紙面でその詳細を具体的にご紹介するのは困難ではありますが、大事と考えるポイントを何点か具体的に指摘をします。なお、判決の全文はこの裁判を支援する会が作成されたホームページ「理学療法士学生の実習問題を問う ~近畿リハビリテーション学院と辻クリニックに対する裁判を通して考える~」 (http://www.ptjisyu.com/)に掲載予定です。

◆判決が認定した実習先「辻クリニック」の責任
 ①輝民に対する実習指導者Nの言動は、「一方的に不安感や屈辱感を与えるものであって、過度に心理的負荷を与えるものである」、「一方的に威圧感や恐怖心、屈辱感、不安感等の過度に心理的負荷を与えるものである」として、注意義務に違反する行為と認定。
 ②輝民の実習現場と自宅での一週間あたりの学習時間の合計が、厚生省指導要領基準の45時間を大幅に超えて平均約70時間になっていた。「臨床実習を指導する立場であるNは、輝民に対し具体的な作業時間や睡眠時間等の確認を行うなどし学習時間の実情を把握し、それが質的・量的に過重なものとなっていないかを検討し、それが過重な場合には改善するための指導をするべきであったにもかかわらず、輝民に対して前記確認すらしたことがなかった」ことが注意義務に反する。
 ③Nは平成20年に実習先のハラスメントで自殺した近畿リハ学院の学生Aと同級生であり、実習先のハラスメントが原因で学生が自殺に至る場合があることを認識しており、輝民が自殺に至ることは充分予見できた。
 特筆すべきは、実習生の受け入れ先の責任について、被告一裕会は「そもそも教育の本質として強制的・懲戒的側面があることは否定できないため、スーパーバイザーには実習生に対して一切の疲労や心理的負荷を与えてはならない義務があるとするのは不合理である。」と主張して争ったのに対して、裁判所は「臨床実習に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、実習生の心身の健康を損なう危険性があることは明らかであることをも考慮すると、本件実習における輝民のスーパーバイザーであったNは、実習生として受け入れた近畿リハ学院の学生である輝民に対し、前記安全配慮義務の内容として、本件実習に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して輝民の心身の健康を損なうことがないようにすべき注意義務を負っていたと解するのが相当である。」として、平成20年3月24日の電通最高裁判決の判示を意識した根拠で、真正面から注意義務を認めたことです。

◆判決が認定した 近畿リハビリテーション 学院の責任
 ①近畿リハ学院は、実習先指導者Nの言動で、輝民が過度の心理的負担を受けていることを認識しながら、実習環境改善の具体的措置を講じなかった。
 ②前記②と同様の違反を認定
 ③同学院は、平成20年にも学生が実習中に自殺しており、実習先のハラスメントで実習生が自殺に至る可能性を十分に認識できた。またNによる輝民に対する心理的負荷を与えることが明らかな違法発言を認識し得たことから、輝民の自殺を予見できた。

◆被告らの控訴
 今回の判決は、従来の臨床実習教育のあり方に根本から疑問を呈し、その改善を実現する上で大きな契機となるものです。原告の大野さんは、判決後の記者会見で「夫も『よく頑張ったね』と言ってくれると思います。二度と同じような犠牲者を出さないよう真剣に対策を考えて欲しい」と述べました。
このような判決に対して、被告髙寿会が判決の言い渡し日に即日控訴、被告一裕会がその翌日控訴をしたため、今後は、大阪高裁での審理が継続します。
高裁でも被告らの責任を認めた判断が確定し、専門学校における実習の根本的な改善に向けての大きな支えとなるよう、引き続き尽力してまいりますので、みなさまも裁判の動向に関心を持っていただければ幸いです。

弁護士 上出恭子

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第44号(2018/8/1発行)より転載

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