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法廷内の手錠・腰縄の問題

 現行刑事訴訟法287条は、「公判廷においては、被告人の身体を拘束してはならない。但し、被告人が暴力を振い又は逃亡を企てた場合は、この限りではない。」と規定している。そのため、裁判の審理中は、被告人には身体拘束を解かれるが、その前後、即ち、法廷へ入廷する際と、法廷から退廷する時には、勾留されている被告人は一律、手錠及び腰縄がなされ、傍聴人や裁判官の目にも触れる運用が一般化している(これについては、上記刑訴法287条の規定の公判廷とは、物理的な法廷を指すことから、そのような運用自体が違法であるとの見解もある。)。
 そもそも、被告人が手錠・腰縄により拘束される根拠としては、刑事収容施設法78条の「刑務官は、被収容者を護送する場合又は被収容者が次の各号のいずれかの行為をするおそれがある場合には、法務省令で定めるところにより、捕縄又は手錠を使用することができる。
 一 逃走すること
 二 自身を傷つけ、又は他人に危害を加えること 
 三 刑事施設の設備、器具その他の物を損壊すること
 との規定が存在する。
 このように、刑事収容施設法は、「捕縄」又は「手錠」という表現を用いているうえ、その使用が許される場面を限定的に列挙しているものであるから、現在の一律の手錠・腰縄(法律上は、「捕縄」とされており、必ずしも腰部に捕縄をすること(腰縄)に限定されていないが、実際には腰縄のみがなされていることから、「手錠・腰縄」という表現を敢えて用いている。)という運用には、法律上も問題があると言わざるをえない。
 手錠・腰縄姿を衆目にさらすことは、辱めを受けることであり、人間の尊厳(憲法31条)にも関わるうえ、無罪推定(憲法31条)や対等当事者としての地位保障の観点からも問題となる。また、自由権規約7条は、「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない」と規定しており、このような国際人権基準の観点からしても、さらには、他の先進国の実際の状況と比較しても、日本における一律の手錠・腰縄使用という運用は早急に改められなければならない。
 この点、大阪地方裁判所平成7年1月30日判決は、看守が勾留中の被告人を眼科に護送した際に、両手錠・腰縄姿が周囲の患者に見られた事案(国家賠償請求)ではあるが、「護送に際し手錠・腰縄姿を公衆の面前にさらすことは、被告人の自尊心を著しく傷つけ、被告人に耐え難い屈辱感と精神的苦痛を与えるものであるから、やむを得ない特段の事情が存在しない限り、そのような護送行為は被告人の人格権に対する違法な加害行為たるを免れないというべきである。本件では、証拠を仔細に検討しても、このような特段の事情は何ら認められないから、……原告を、外来患者らに手錠が容易に見え、両手錠・腰縄付きで護送されていることが一見して分かる状態で「眼科外来」の廊下等を連れ歩いたことは、原告の人格(人間としての誇り,人間らしく生きる権利)への配慮に著しく欠けるもので、原告の人格権に対する違法な加害行為であるといわなければならない。」と判示して、その違法性を認めている(同裁判に対して国が控訴したが、控訴審(平成8年10月30日判例タイムズ941号139頁)も「未決拘禁者を拘置施設の外に護送する際に手錠・腰縄等の戒具の使用が許されるのは、それが逃走等の事故を防止するためにやむを得ないからである。したがって、戒具等を使用する場合にも、その目的と矛盾しない範囲内では、可能な限り、手錠や腰縄がむき出しのまま公衆の目に触れないようにするなどして、とくに無罪の推定を受けている未決拘禁者に対してはその人権に対する十分な配慮を要することは当然のことといわなければならない。」と判示し、国の控訴が棄却された。その後、国が上告したが、同上告も棄却された。)
 我々弁護士やマスコミ関係者には、慣れっこになってしまっている上記の光景は、初めて法廷に来て傍聴した方や、被告人の家族には、衝撃やショックを与えることがある。中には、手錠・腰縄の姿など見たくないという傍聴人もいる。そうした感覚を私たちは忘れてはならない。

弁護士 中森俊久

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第43号(2018/1/1)より転載

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