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ヘイトスピーチ

 ヘイトスピーチ(民族、国籍、皮膚の色、社会的身分、宗教、性、性的指向、障がいなど、自分で変更できない、もしくは変更が著しく困難な属性を理由として行われる差別表現、特に差別の煽動を指す。定義の詳細は師岡康子『ヘイトスピーチとは何か』岩波新書・2013年参照)が在日コリアンに対するものを中心に2000年代半ばから従前に比して大きく広がり、デモや街宣活動までもが散見される状況となった。
 このようなヘイトスピーチが許されないことは言うまでもない。2013年10月、京都地方裁判所は、京都朝鮮第一初級学校が某団体から襲撃を受けた事件につき、某団体の言動は人種差別撤廃条約の定める人種差別であり、表現の自由の保障の範囲外であると明示したうえで、約1200万円の損害賠償等を認める判決をなした(2014年12月の最高裁決定により同地裁判決を支持した大阪高裁判決が確定している)。また、2014年7月末には、国連自由権規約委員会の日本政府報告書の審査にて、ヘイトスピーチの法規制を求める勧告が出され、続く8月にも、国際人種差別撤廃委員会の同審査にて、包括的な差別撤廃政策を求める勧告が出された。
  このような国内外からの批判を受けて、日本国内においても法整備の動きが始まり、国会内外での様々な議論を経たうえで、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)」が2016年6月3日に公布・施行された。また、それ以前の同年1月15日には、大阪市で「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」が成立し、同年7月に施行された。
  ヘイトスピーチ解消法は、ヘイトスピーチに対する理念法であり、具体的な施策が定められている訳ではない。また、大阪市条例に関しても、ネット上のヘイトスピーチに対する抜本的な解決にならない、審査会の審査に相当の時間を要する(2016年7月申し出の3件の動画投稿につき、翌年3月の審査会でヘイトスピーチと認定され、市長に答申がなされた。)、市長の職権による積極的措置がなされない(2016年7月から10月にかけて大阪市役所前で計15回のヘイトスピーチ街宣がなされたが職権発動はなかった)、インターネット上の投稿につき電気通信事業法による守秘義務との関係で実名特定が困難であるなどの指摘がなされている。
 このように、ヘイトスピーチ解消法や大阪市条例に不十分な側面があるとしても、法律等によりヘイトスピーチが差別被害であるとされ、差別の解消に向けての取り組みが明確化された意義は大きい。これら法律等を契機に、人間の根本に影響し、深刻な被害をもたらすヘイトスピーチの解消のためにいかなる措置が必要か、罰則や事前規制の是非も含めてさらなる議論が深まっていくことを願う。

弁護士 中森俊久

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第42号(2017/8/1)より転載

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