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電通過労死事件はなぜ繰り返されたのか

平成27年12月25日、クリスマスの夜に、広告大手の電通で24歳の新入社員、高橋まつりさんがビルから飛び降りて亡くなりました。
高橋さんは、月130時間もの残業(高橋さんの代理人の集計による)に従事していましたが、部長から「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」、「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな」など(高橋さんのツイッターによる)、心ない言葉をかけられ、入社して半年余りでうつ病を発病し、その1月ばかり後に自殺に追い込まれました。高橋さんは、亡くなる直前、母親に「大好きで大切なおかあさん。さようなら。ありがとう。人生も仕事もすべてつらいです。お母さん、自分を責めないでね。最高のお母さんだから」とのメールをしたそうです。
電通では、平成3年にも、入社2年目の大嶋一郎さんが同様に長時間労働と上司からのハラスメントにより、うつ病を発症して亡くなっています。
大嶋さんの自死については、平成12年に最高裁判所で長時間労働が労働者の心身の健康を損なう危険があることは「周知のところ」とした、いわゆる電通判決が出されました。
電通判決は、労使共に労働問題に取り組む弁護士であれば誰でも知っている判決です。電通は、同じような事件を起こせば社会的に大きな問題になることを分かっていたはずです。それなのに、どうして、このような痛ましい事件を再度起こしたのでしょうか。
大嶋さんと高橋さんには、入社1~2年目の若年労働者であることや、上司からのハラスメント、長時間労働という共通項が沢山ありますが、最も問題といえるのは、残業時間を過小申告させ、実際には長時間労働を強いていたことです。
大嶋さんも、高橋さんも、実際の1か月あたりの残業時間は100時間を超えていました。しかし、両名の残業時間として、会社に申告された〝表向きの記録〟として残っているのは、100時間に満たない、36協定に定められた残業時間の上限に収まる残業時間数です。
36協定は、労使間で1か月あたりに許される残業時間数などを定めた協定であり、使用者が労働者にそれを超える残業をさせることは違法です。電通の36協定で定められた残業時間数は、過労死ラインを下回る時間数です。
大嶋さんも、高橋さんも、実際には36協定の規定を超え、過労死ラインを上回る残業をしていたにも拘わらず、会社に申告するのは36協定に定めた時間内に納まるよう制限されていました。電通は、社員が長時間労働に従事していることを把握しながら対応せず、残業時間を過小申告させ、あたかも優良企業であることを装った「隠れブラック企業」であり続けたために、痛ましい事件を繰り返したのです。
高橋さんの事件を受けて、一定の時刻になると従業員が社屋に残れないようにする取り組みがなされているようです。しかし、仕事量が減らず、人員も補充されなかったら、こっそり、別の場所で仕事をするしかないのが労働者です。会社に分からないように残業し、結局過労死に至る労働者が生じたのでは何の問題解決にもなりません。むしろ、こっそり残業することで労働時間の立証が困難になり、労災と認められなかったり、企業側も労働者が勝手に残業したのだと主張して損害賠償に応じなかったりする危険もあります。このような傾向が進めば、残業時間の記録が残らないよう、周到に細工をする使用者が一層増えるかもしれません。
大切なのは、使用者が労働者の実際の労働時間を把握し、正確な労働時間を元に労働環境を整備した方がメリットの大きい仕組みをつくること。例えば、労働時間の適正把握を怠った企業は、一定期間公共事業に参加できないようにするなどが考えられます。
今回のような過労死事件は、全国で事業場の規模の大小を問わず起きています。亡くなった方の無念が晴れることはありませんが、これ以上の犠牲者を防ぐために私達も声を上げ続けたいと思います。

弁護士 和田 香

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第41号(2017/1/1発行)より転載

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