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個人通報制度の早期実現を!

1 はじめに

  近畿弁護士会連合会人権擁護委員会国際人権部会と大阪弁護士会選択議定書批准推進協議会の共著にて、本年4月に日本評論社より「国際人権条約と個人通報制度」が出版された。私も同本の原稿の執筆・編集に関与したこともあり、今回は、個人通報制度の中身について分かりやすく紹介したい。

2 個人通報制度の内容

(1) 個人通報制度とは、条約において認められた権利を侵害されたと主張する個人が条約機関に対して、直接に訴えを起こしてその救済を求める制度をいう。

  第二次世界大戦後に設立された国際連合において、基本的人権の尊重がその主要目的の一つとして掲げられた。その後、世界人権宣言が採択されたほか、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(「自由権規約」)・「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(「社会権規約」)をはじめとするさまざまな人権条約が制定されたが、それら人権条約の保障を担保するために、定期報告書審査(政府が国内の人権状況を定期的に報告し、審査を受けるもの)と個人通報の二つの制度が存在する。個人通報制度は、いわば車輪の両輪のひとつとして、人権条約に定められた権利を具体的に実現するシステムである。

(2) 主な人権条約において個人通報制度が現在実際に機能している条約は、自由権規約、拷問等禁止条約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約の4つである。個人通報制度は、各人権条約の締約国に直ちに適用される訳ではなく、各条約に定められた手続を行うことが必要であり、例えば、自由権規約の場合には、本体条約とは別の選択議定書(ちなみに、第一選択議定書が個人通報制度、第二選択議定書が死刑廃止議定書である)を批准する必要がある。

  自由権規約第一選択議定書の批准国数は、2011年(平成23年)7月20日現在114か国に及び、1976年の発行から2009年(平成21年)10月30日までの間に、自由権規約委員会に82か国から1909件の通報がなされ、本案審査によって549件が条約違反と認定されている。例えば、国籍の違いにより軍人年金の支給額に差違を設けることは国籍による差別とされた事例(対フランス)、警察留置場における身体洗浄と屋外運動が1日各5分しか許されないのは被拘禁者の人道的取扱を定めた自由権規約10条に違反するとされた事例(対ハンガリー)などがある。

3 日本の現状

  日本においては、この個人通報制度が一切実現されていない。G8サミット参加国において唯一日本だけが何らの個人通報制度を持たず、自由権規約委員会からは1993年、1998年、2008年と3回にわたり第一選択議定書の批准を勧告され、女性差別撤廃委員会、人権理事会等からも様々な場で個人通報制度の受入を求められている。

  2009年9月、民主党を中心とする新政権が誕生し、個人通報制度の実現を行うことが表明され、2010年4月には、外務省内に人権条約履行室が設置されるなど、個人通報制度の実現に向けた準備が進められている。しかしながら、その後の状況は不透明で、個人通報制度が実現される道筋は未だ不明である。

4 個人通報制度の実現に向けて

  この個人通報制度が日本でも実現されると、最高裁判所にて敗訴した個人が条約違反を理由に国を相手方として人権条約機関に申立を行い、権利救済を図ることが可能となる。規約人権委員会は、代用監獄の弊害、在日外国人・朝鮮人等に対する差別、婚外子など女性に対する差別、死刑受刑者の処遇など様々な指摘を日本政府に対して行っているが、この個人通報制度が実現されれば、それら日本の人権状況につき、国際人権条約の観点からの見解を問える道が開ける。

  日本の人権保障の状況が国際人権条約に照らしても十分な状況であるなら、個人通報制度が実現されても特に支障はないはずである。政府がその実現を躊躇するほど、「実現されるとまずいことがあるのでは?」との疑念が沸いてくる。人権問題が市民生活の全般にわたって国際的視野から見直されるためにも、日本が批准している人権条約に附帯する全ての個人通報制度が早期に実現されることを強く願う次第である。

                                                                                             

                                                  以上

 

 

 

弁護士 中森俊久

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第32号(2012/8/1発行)より転載

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