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古典をたずねて

万葉集 ~舒明天皇国見の歌~

 大和には群山あれどとりよろふ天の香具山登り立ち国見をすれば国原は煙立ち立つ海原はかまめ立ち立つうまし国そあきづ島大和の国は

「大和にはたくさんの山々があるが、特に頼もしい天の香具山に登り立って国見をすると、広い平野にはかまどの煙があちこちから立ち上がっている、広い水面にはかもめが盛んに飛び立っている。本当によい国だね(あきづ島)この大和の国は」(小学館「日本古典文学全集萬葉集」巻一の訳による)

 この長歌はわが万葉集のなかで一番目の「籠もよ、み籠持ち、ふくしもよみぶくし持ち、この岡に・・・」の調べで始まる有名な雄略天皇(第二一代)の歌に続く二番目の歌で、舒明天皇(第三四代)の歌である。詞書には、「天皇香具山に登りて望国したまふ時の御製歌」と書かれている。
 帝王や為政者が高いところに登り、四方を観望し国の形勢の判断に役立てることは、政治的行事の一つであった。日本書紀にも仁徳天皇(第一六代)が五穀が実らない状況がつづくなかで、民から課税を三年間やめ、三年後に高殿に登って人家を観望したところ、あちらこちらから、かまどの煙が立ちのぼっているのを見て、大いに喜んだと記述されている例である。
 舒明天皇のこの歌は、嘱目の情景を印象的に歌っており、叙景の歌の萌芽とも言われている。
 私はこの大らかで王者の響きのある歌を好もしく思うものである。
 大和とは、「磯城」、「高市」、「葛城」の旧諸郡の地域をさすものとされ、「海原」は広大な水面として香具山の麓の「埴安」、「耳成」、「磐余」などの池が広がっていることを言うとされている。また「かまめ」は、いまの百合鴎などが湖や池に飛来していたものである。
 「あきづ島」は秋津島のことで、一般的には大和の国のことをいうが、ここでは大和の国にかかる枕詞として使われている。
 舒明天皇は推古天皇(五九二年に皇位に就いたわが国初の女帝)に始まる飛鳥京の二代目の天皇で、いまの飛鳥寺の南方あたりにあった飛鳥岡本宮(場所について異説あり)に即位し、その後、三つの皇宮(田中宮、厩坂宮、百済宮)に移り、政ごとを行った。
 万葉集には「高市岡本宮に天の下治めたまひし天皇の代」と長歌の前に記述されている。この天皇の治世は一三年間であった。

参考にした本
 小学館 「日本古典文学全集 萬葉集」
 宇治谷孟 「日本書紀 上」 講談社学術文庫
 和田萃 「飛鳥」 岩波新書
 木俣修 「万葉集 時代と作品」 NHKブックス

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第27号(2010/1/1発行)より転載

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