事務所ニュース「いずみ」

古典をたずねて

平家物語(その一)

 「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色、盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理(ことわり)をあらわす。おごれる人も久しからず、唯(ただ)春の夜の夢のごとし。」

 これは12巻と灌頂巻(かんちょうのまき)からなる(覚一本、流布本による)平家物語の有名な冒頭の一節である。
 平家物語は中世への胎動となった保元物語や平治物語の時代と並んで公家(貴族)社会から武家社会への転換期に生れた国民的文学である。
 この物語には、前半部分では平氏の栄耀(えいよう)と驕慢(きょうまん)が描かれ後半は平氏の滅亡が描かれている。平家物語が合戦を中心とする軍記物語であるとともに「ほろびの文学」といわれる所以である。
 この物語には因果応報、諸行無常、盛者必衰、無常観といった仏教思想がその底辺に一貫して流れている。
 このように仏教的思想の観点から記述されていくのは中世文学の特徴の一つである。
 平家物語は悲哀と勇壮、洗練された美と荒けずりなたくましさ、公家的なものと武家的なものが織りなす重厚な作品となっている。
 平家物語(その一)この作品は歴史文学として年月の順を追って事実を記す編年体と伝記や逸話を記述する紀伝体とを混淆した形で書かれ、そのなかで、平氏の公達(きんだち)たちの最期(さいご)を悲しいまでに美しく描きつつ平氏の滅亡へと物語を展開している。これは平家の人々への鎮魂歌であり、作品全体が一大叙事詩となっている。

 それぞれの人物の伝記や逸話(エピソード)及び興味ある題材が紙幅を惜しまず挿入され、それらの逸話との絡みによって登場人物の最期は極めて劇的なものとなり読者に滅び行く平家への哀惜の念を深くさせるのである。
 私はそれらの代表的なものとして薩摩守(さつまのかみ)「忠度(ただのり)」と和歌、皇后宮(こうごうぐう)の亮(すけ)「経正(つねまさ)」と琵琶の名器青山(せいざん)そして無官(むかん)の大夫「敦盛(あつもり)」と笛の小枝(さえだ)及び熊谷次郎直実(くまがいじろうなおざね)の物語について次号でやや詳しく述べたいと思う。

※日本古典文学全集平家物語一、二、校注・訳市古貞治、小学館 を参照した。

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第9号(1999/3/23発行)より転載

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