事務所ニュース「いずみ」

古典をたずねて

筒井筒(伊勢物語)

 筒井筒(伊勢物語)世阿弥(ぜあみ)の曲に「井筒」(いづつ)がある。この曲については世阿弥がその語ったところを二男の元能(もとよし)が聞書(ききがき)した「申楽談義」(さるがくだんぎ)のなかで「井筒すぐなる能なり」と自画自賛しているように複式夢幻能(ふくしきむげんのう)(夢幻能は現在能に対する能の形式で旅僧が亡霊に導かれてその懐旧談を聞き、舞などを見るという設定で物語が展開される能)による名曲中の名曲である。
 古典文学と能とは源氏物語や平家物語などに見られるように切っても切れない関係にあるが、「井筒」は世阿弥が伊勢物語の23段の「筒井筒」を題材として創作したものである。(井筒とは井戸のことである)
 伊勢物語は125段からなっており、それらの多くの段が「昔男ありけり」で始まる平安中期に成立した歌物語である(作者ははっきりしていない)。主人公の男性のモデルは有名な在原業平(ありわらのなりひら)である。
 「筒井筒」は業平と紀有常女(きのありつねのむすめ)との恋物語や夫婦愛を描いて絶妙である(紀有常は仁明・文徳・清和の三帝に仕えた人)。
 幼馴じみの2人は次の歌を交わして結ばれる。

男 筒井筒の井筒にかけしまろがたけ、過きにけらしな妹見ざるまに

女 くらべこし振分髪(ふりわけがみ)も肩すぎぬ君ならずして誰かあぐべき

 男は河内の高安(現在の八尾市内の地名)に女をつくり日参する。女はこのことを知りながら

風吹けば沖つ白浪竜田山、夜半(よわ)にや君がひとりこゆらん

 と男を心配する。この女の優しい心根にふれて男は再び女のもとに帰ってくるのである。
 名曲「井筒」は夢幻能の形式で女(後シテ)が男との素晴らしい夫婦愛を語りつつ男を偲び、男の冠直衣(かんむりのうし)を身につけて序の舞(じょのまい)を舞う終盤をクライマックスとして展開される。そこには古典と能との幽玄な世界での融合を見ることができるのである。

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第2号(1996/1/1発行)より転載

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