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古典をたずねて

堤中納言物語「花桜折る少将」

 堤中納言物語は短編物語集である。十編の物語で成り立っている。
  「花桜折る少将」「このついで」「虫めづる姫君」「ほどほどの懸想」「逢坂越えぬ権中納言」「貝合」「思はぬ方にとまりする少将」「はなだの女御」「はいずみ」そして「よしなしごと」の十編である。
 
成立は「源氏物語」以降である。
一定の期間に何人かによって書かれた短編物語を「堤中納言物語」として纏められたのである。
 また題名の堤中納言物語は堤中納言と呼ばれた藤原 兼輔(歌人・三六歌仙の一人 九三三年没)の事跡にもとづいて書かれたものとする読者の認識から「堤中納言」の総題名が生れたと考えられる(後出の参考文献の解説)がはっきりしない。ここでは十編のうち「花桜折る少将」を読んでみたい。
一、主人公は中将である(中将は古代の左右近 このえふ 衛府の次官。また、中将は少将の誤記である。昔は人を官職で呼ぶ例が多かった)。
「花桜折る」は 多義的であるが、「美女を手に入れる」という意味だと考えられる。
 ある日、中将は早く目覚めて女のところから帰路につくが途中桜の美しく咲いている小家に至り「はやくここに物言ひし人あり(以前この家に親しくした女がいたっけ)」と思い出し、歌を詠む。
 そなたへとゆきもやられず花桜にほふこかげにたびだたれつつ(あなたの方へ通り過ごすこともできない。この美しい桜に心ひかれてこの木陰につい足がむいてしまう)と口すさびながら小家を覗き童に訊いてみると「そのお方はここにいません。山奥みたいなところにいらっしゃいます」と女主人のことを言った。中将は「おかわいそうに尼さんにでもなったのかな」と思ったりする。
 しかし、よく見ると五・六人の人が物詣に出かけるのだろう。その中に家の階段を下りるのも難儀そうで小柄でとてもかわいく言葉つきも気品がありげである。「これこそ女主人だろう」と中将は「やれうれしや、よいところを見たぞ」と夜も明けるので自宅へ帰っていった。
二、翌日、中将は家 かじん 人から「あの娘は源中将の娘で姫の伯父の大将殿が迎え取って帝に差し上げようと申している」と訊き、家人に対し「さらざらむさきに、なほ。たばかれ(そうならぬ先にやはり私が迎え取りたい。お膳立てを頼む)」という。家人は「そうしたいのはやまやまですが、どうして容易なことではない」と立ち去るのである。
三、家人が小家の童に姫の斡旋を頼むが童は「どうも祖母様がやかましくおっしゃるのだ」と引き受けかねつつ、よい機会があったらすぐお知らせしますと折れて出る。
 家人が中将に「今夜こそ絶好の機会だ」というので中将が家人の車で夜更けて姫君の所へ向う。
 中将は広い母屋にとても小柄な格好で横になっている人を抱えて車に乗せる。乗せられた人は「これは一体どうしたことか」という。中将が邸についてやれやれと姫を車から降ろそうとすると初めて耳に入ったのは老人のしわがれ声。「いやはや、こんなことをするのは誰じゃ」という。尼君の声であった。中将の乳母の説明によると「姫君を盗むけはいを感じ姫にかわって祖母様が出家して頭を剃って寒い状態なので着物をすっぽりかぶっておいてであった」とのことである。
 尼君の御器量はこの上なく美しかったといわれても…。
 作中「光季」「季光」と人名がでてくるがすべて家人としておいた。また、少し長いので敢えて省略したところもある。
 
参考文献  小学館日本古典文学全集「堤中納言物語」稲賀敬二訳・著

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第45号(2019/1/1発行)より転載

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