事務所ニュース「いずみ」

弁護士活動日誌

パワハラの立証

 厚生労働省は、職場のパワーハラスメント(以下、「パワハラ」といいます。)とは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義しています。このパワハラ、往々にして加害者と被害者以外がいない場所で行われます。そのため、仮に「バカ」、「アホ」、「死んでしまえ」などと峻烈な暴言を浴びせた、というものであっても、後日加害者が「そんなことは言っていない」と否定すると、被害者には立証の手段がないのが現状です。ですから、私たちは、職場でパワハラ被害に遭っているというご相談については、ご本人がまだ在職中で出社できる状況であれば、録音を取るなどして証拠を集めるようお願いをします。証拠がなければ、裁判所が「パワハラを認めるに足りる証拠はない」と判断しかねないからです。  ところが、です。先日、上司らから「殺すぞ」、「人間力ゼロ」などと机を叩きながら約1時間にわたり暴言をうけ、精神障害を発症したSさんについて、 労災と認めるよう求める行政訴訟で大阪高裁は、以下のように判断し、暴言と発病との因果関係を否定しました。前にも上司Aから暴言を受けたことのあるSさんが、今回も暴言を受けるのではないかと思って録音機を持ち込んだことについて、「録音されていることを知らないAが激高し、不当な発言等を続けるのを聞き、適宜対応していたものであるから、内心では優位な立場にあった」、「Aを挑発することによって、同人が激高の余り、不当な発言等をする可能性をある程度は予期した上で、これを証拠にすることによって、その後のB(勤務先)との交渉を自己にとって有利に進めるという周到な計画のもと、録音機を持参し、面談に臨んだものであると考える余地も十分にある」。Sさんは、上司から暴言を受けている間、謝罪を続け、特に挑発した発言がないことは録音上も明らかです。また、「周到な計画」は国・会社側は全く立証しておらず、大阪高裁の想像に過ぎません。また、大阪高裁は、この暴言のあと、Sさんが精神障害を発病したことは認めています。仮に、大阪高裁の想像したとおり、Sさんが自分の利益のため 「周到な計画」を立てて「内心では優位」な状況で暴言を受けていたら、どうして精神障害を発病したというのでしょう。 日本の制度では、事実関係について審理をしてもらえるのは高裁までです。また、上告や上告受理申立を受け付けてもらえるのは極めて限られたケースです。そうすると、事実上多くの人にとって裁判所の判断を仰ぐ最後の機会となる高裁で、裁判官が労働者に対し穿った見方をし、パワハラの立証について上記のような考え方を持っているということは非常に危険です。Sさんは、現在上告・上告受理申立中です。何とか、高裁の誤った判断が覆るようにと期待せざるを得ません。(弁護団は村田浩治弁護士、立野嘉英弁護士、和田)

弁護士 和田 香

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第45号(2019/1/1発行)より転載

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