事務所ニュース「いずみ」

弁護士活動日誌

Sさんのリンゴ

 「これ、つまらないものですが、皆さんで召し上がって下さい。」と言って、Sさんから、百貨店の紙袋を差し出された。
 「リンゴです。丁度、今が旬やから。ほんまにちょっとですけど。」
 Sさんは今年で60歳半ばになる女性で、これまで生活費が足りない時などに借りた借金が膨れてしまい、今の収入では返済が事実上不可能だということで、自己破産の申し立てを準備中であった。
 若くして夫を亡くし、当時、小学校と中学校の男の子3人を抱えて、体を張って生きてきたたくましいお母さんである。
 60歳を過ぎて年金が支給されるようになってからも、必要に応じて長年に亘って借りた借金を返済する必要から、パートに出て、なんとか自分で返済しようと頑張ってきた。今現在も朝から夕方まで毎日、働いている。見た目には、60歳を超えているようには見えない元気な方だ。
 裁判所に破産の申し立てをするには、いろいろと現在の生活状況、財産の有無に関する資料等を提出する必要があるが、中でも、特に重要なのが、どのような事情で借金が増大し、返済が不可能となったかである。
 Sさんの場合、日常の生活費が足りなかったという事情の他に、子供達が成人し家庭を構えて孫が出来ると、十分でない給料から孫の入学祝いや、成人式のお祝い、お正月のお年玉など、かわいい孫のために、おばあちゃんがしてやりたいと思う普通のことをしてきただけであったが、そのことも借金を増やす大きな原因の一つとなっていた。
 「今、思たら、無理なことをしとったんかなと思います。こんなことで、いろんな方にご迷惑かけて。こんな年で、こんなことになってしもて、ほんまに情けないです。」と言うSさん。借り入れが無計画だったと言われれば反論の余地はないものの、真正面から責めたてることは難しい気がした。
 いつも申し訳なさそうに、勤務場所である百貨店の袋を持って事務所に来るSさん、その心遣いから孫達への優しさも想像がつく。
 皮を剥いて口にしたリンゴは、少しばかり渋く、甘ずっぱかった。
 人生の終盤を迎えて破産申立てをしなければならなくなったSさんの心の内が頭を過ぎる。

弁護士 上出恭子

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第11号(2000/9/10発行)より転載

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