事務所ニュース「いずみ」

弁護士活動日誌

Fさんからの手紙

 Fさんは、数年前に担当した国選の刑事事件の依頼者だ。交通事故で片目が失明状態になったFさんは、治療を終えて再就職をしようとしたものの、失明のことや、同居していた軽い認知症があった母親の看護のこと等が原因で安定した仕事に就くことができなかった。そうこうしている間に、無職の状態が続き蓄えも底をついて、食うや食わずの生活が数ヶ月続くことになり、最後には電気、ガス、水道が止められた。途中、Fさんは救いの手を求めて地元の役所に生活保護の相談に出向くが、まだ年齢が若い、体が悪いというなら診断書を入手するよう言われた。当時、所持金がわずか数百円というFさんには病院へ行く費用がある訳がなかった。
 このような経過の中で、Fさん自身生きる気力がなくなり、母親とも相談をして、一緒に死ぬことを決意し実行に移したが、Fさんは失敗をして生き残ってしまった。
 当初「殺人罪」で捜査が開始されたが、以上のような経過や母親も死ぬことを了解していたと最終的には判断され、「承諾殺人罪」での起訴となり、判決ではなんとか執行猶予付きの判決が下された。
 その後、Fさんは、自治体の野宿生活者(ホームレス)の自立の支援施策の下で、就労訓練等のプログラムを受けて就職先が決まり、自立して生活をするようになった。いろんな経緯があったにせよ、Fさんが新しい生活を自分の力で送られることが、母親への一番の供養だろうと思っていたので、時折下さる元気な声を聞いて、とても嬉しく思っていた。
 そのFさんが、数ヶ月前に勤務先のリストラがあり、また仕事が無くなった、再度、役所の自立支援プログラムの利用をせざるを得ないという連絡があった。
 どうされているかと思っていたところ、生活保護を受ける見込みになり、新しい住所が決まれば手紙を送りますとの連絡があった。そして、つい先日、Fさんが、その手紙を持参して事務所に来られた。
 そのFさんが下さった手紙には、丁寧な時候の挨拶の後に、現在生活保護を受けることになったこと、そして、「1日なにもすることもなくて、たいくつで困っています。・・・・する事もなく、病院がよいだけです・・」と、本当なら働いて得たそのお金で生活をしたいのに、何もすることがないということへの切実な思いが綴られている。
 働きもせずに国から金をもらって何をを贅沢なという意見を持たれる方もいるかもしれない。でも、元来働き者だったFさんの気持ちが分かるだけに、本当に10数行の短い手紙ではあるが、そこに書かれた思いはあまりに切なく、胸が痛くなる。
 改めて、生きていく上で「働く」ことの意味の深さを実感させられた。

弁護士 上出恭子

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第27号(2010/1/1発行)より転載

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