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弁護士活動日誌

「様式を誤る」厚生労働大臣

1 弁護士1年目から、原爆症認定集団訴訟の弁護団として活動している。前号で中森弁護士も執筆しているが、本稿では私が担当している原告のFさんを巡る問題点について述べてみたい。

2 原爆症として認定されるための要件を簡単にまとめると、①疾病が放射線に起因する(「起因性」)、②現に医療を要する状態にある(「要治療性」)、となる。被爆者は、厚生労働大臣に上記要件を満たさないと判断された場合、却下理由が書かれた書面により却下通知を受けることになる。
 Fさんも、厚生労働大臣より却下通知を受けた。その却下通知には、「貴殿の申請に係る疾病については、原子爆弾の放射線に起因するものと判断されました。(中略)が、現に医療を要する状態にはないものと判断されました。」と記載されていた。つまり、上記2要件のうち、①は満たすが②は満たさないと判断されたのである。かかる判断に納得できなかったFさんは処分の取り消しを求めて提訴したのだが、その際の主張のポイントは、当然、①が認められるのを前提に②も認められることを証明することであった。
 ところが、訴訟において、被告は、やはりFさんには起因性が認められなかった(つまり①の要件を満たさない)、と主張してきたのである。弁護団としては、このような矛盾する主張が許されるのか憤りつつ、法的に許されるかはしばらくおき、なぜそのように主張が変わったのかについて追及した。その結果返ってきた答えが、却下通知を「誤って他の様式(放射線起因性を認めた上で要医療性がないとして却下するもの)を用いて作成した」ため、というものであった。
 この被告の弁解が仮に真実だとした場合、Fさんの思いはどうなるのだろう。Fさんは、原爆によりいわば人生を変えられ、何十年にもわたり大変な生活を強いられ、申請をした。そのような申請に対し、「様式を誤って」却下するなど、許されるのだろうか。被告は、上記回答とともにFさんにかかる判断の基礎とした資料も提出してきたが、極めて杜撰で、これらを基に人の人生に関わる重大な決定をしているなど、信じがたいものであった。

3 「私も若いころハイヒールを履いておしゃれをしたかった。でも、そんなささやかな願いさえも、かなわなかった」というのは、学生時代に聞いた長崎の被爆者松谷英子さんのことばで、ずっと忘れられないでいる。このような被爆者の思いは語り尽くせないものであろうが、厚生労働大臣は、そのような思いを「様式を誤る」ような杜撰な手続により、ふみにじっているのである。このような杜撰さを明らかにし、被爆者の思いに応える判決を勝ちとっていきたい。

弁護士 佐藤真奈美

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第17号(2004/8/1発行)より転載

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