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弁護士活動日誌

今でも忘れられない言葉─ある医療過誤訴訟から─

 もう何年も前に担当した事件です。知人のお医者様に大変お世話になって、無事、解決もすることが出来ました。
 お母さんを医療過誤で亡くされたということで、男性が相談に来られました。外科手術後の処置で誤ってドレナージと呼ばれるチューブのようなもので、十二指腸を突いてしまい、それが原因となってお母さんが亡くなられたという経過でした。
 ご兄弟が他に二人おられ相談者の方は長男さんということもあってか、非常にしっかりされていて、ご自身で相談に来られるまでに病院とある程度の話もされ、病院もミスそのものは認めているということでした。
 既にお父様は他界されていましたから、病院に対する損害賠償を行う事の出来る相続人は相談に来られた長男さんの他、弟さんと妹さんがおられますので、事件を担当するにあたっては、このお二人からも依頼をいただく必要がありました。
 弟さんには事務所に来ていただくことが出来、今後の見通しのことや弁護士費用のことなどの説明をして、スムーズにご依頼をいただくことができました。しかし、妹さんとは上手く意思疎通を図ることができず、出だしで困ったことになりました。
 弁護士の場合、裁判所に行くのはもちろん、事案によれば現場に出向くことはあるのですが、依頼者の方との打ち合わせは事務所で行うことがほとんどです。依頼を受けるかどうかの話をするのも、やはり、事務所で行うことが大半で、依頼の意思を確認するためにその方のご自宅等に行くのは、ご高齢だとか、入院中であるといった、事務所に来ることの出来ない何らかの事情がある場合に限られることが多いのが実際です。
 でも、この件では待っていても妹さんが来ていただけそうになかったので、当方からご自宅に行かせてもらうことにしました。すると、それまでのお電話では、お母さんのことを弁護士が入って法的手続を進めて行くことにあまり乗り気でなく、私にもどちらかというとあまり良い感情はお持ちでなかったのではという印象だったのが、実際に、お話をしてみるとごくごく普通にこちらの話を聞かれました。結果的には、他のご兄弟と一緒に当方に依頼をされるということになりました。
 妹さんとお話をしている間、確か、隣の部屋で妹さんのご主人が私たちの話を黙って聞いておられました。
 そして、ご主人が話の終わりの方で初めて口を開かれて、「弁護士さん、あんな、思うけど誰かって失敗することあるで、お医者さんかてわざとこんな失敗しようとしてやったわけちゃうわな、そない思たら、なんでもかんでも裁判とかするのってどないなんやろう」というようなことを言われました。
 事件の依頼を受けるために行った場所で、「誰かって失敗することあるやろ、お医者さんもわざとと違うやろ」という思いも寄らぬ言葉を掛けられ、そして、それが一つの事実であるが故に、少し大げさかもしれませんが、度肝を抜かれる気がしました。
 実際に被害を受けた本人さんの遺族にしてみれば、だからと言って許されるものではないのは当たり前ですが、医療過誤の事件に限らず、誰かの何かの失敗が原因で法的トラブルに発展してしまうことが多いが故に、時折、この言葉が思い浮かびます。当たり前だけどとても大切な言葉を掛けてもらったと思っています。

弁護士 上出恭子

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第23号(2008/1/1発行)より転載

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