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弁護士活動日誌

あきらめたらあかん─平川過労疾病事件:労働保険審査会による逆転裁決(労災認定)について─

 平成19年1月29日付で、労働保険審査会は、「大阪中央労働基準監督署長が平成13年9月17日付で再審査請求人(平川主計さん)に対してした労働者災害補償法による休業補償給付をしない旨の処分及び平成14年4月1日付けで同人に対してした同法による療養補償給付を支給しない旨の処分を取り消す」との裁決を行い、平川さんが倒れた原因は労災であると認めました。

2 事案の概略
(1)平成8年1月5日から、平川主計(かずえ)さんは、(株)DNPメディアクリエイト関西(大日本印刷株式会社の100%子会社)のスキャナ部において写真製版作業に従事していました。
  この職場で就労を開始した当初から、恒常的な長時間労働を行い、特に、全体的に事業所への注文が増加する10月から12月にかけては、より一層長時間、深夜労働が顕著となっていました。
  疲労が蓄積するなか、労働保険審査会が認定した時間だけでも、平成10年12月1日から31日までの週40時間を超えての時間外労働時間は106時間にものぼりました。平成10年12月29日から正月休暇となりましたが、それ以前の長時間勤務による疲労のためほとんど寝て過ごしていたところ、平成11年1 月2日、自宅で二度転倒し、二度めに午後10時ごろ自宅で入浴後、風呂場を出たところで意識消失をして転倒し、その結果外傷性頸椎損傷を負い、現在も不全四肢麻痺の重い後遺症が残っています。
 (2)以上のように、過重労働があったことはほぼ明らかで、しかも、倒れる前1ヶ月の月100時間の時間外労働は現在の過労死の認定基準を満たすものです。しかし、平川さんの場合、転倒した直接の原因が不明(過労疾病の多くの事案では、脳出血や心筋梗塞の跡がCTやMRI等の医症で確認できるのですが、平川さんの場合それがありませんでした)であったため、労基署段階でも労災と認められず、審査請求もダメでした。東京の労働保険審査会に再審査請求をするとともに、平成16年11月5日に大阪地方裁判所に大阪中央労働基準監督署を被告に労災認定を求める行政裁判を提起しました。

3 裁判の経過及び労働保険審査会の裁決
 裁判では、①そもそも平川さんが形式的には委託契約を会社と結んでいたことから労働者といえるのか、②平川さんが従事した労働時間等の労働実態、③倒れた原因は医学的に何なのかが争点となりました。
 弁護団がこういった争点について書面で主張、反論をするだけでなく、平川さんの裁判では、平川さんの友人・知人が中心となって、毎回、多数の方が裁判傍聴に参加下さり、裁判を進める大きな力となっていました。平川さん自身も新聞、テレビなどの取材を積極的に受け、前記②の点については、平川さんの裁判について報道されたテレビ番組を見た、元同僚の方が平川さんに連絡をくれたことから、裁判でも、生々しい労働実態を証言いただくことが出来ました。③の医学的立証に関しては、(財)労働科学研究所の特別研究員の阿部眞雄医師、耳原高石診療所の松葉和己医師に意見書を作成頂き、大変お世話になりました。
 裁判が続行し平成18年12月6日に、ご本人、会社関係者、職場の元同僚の尋問が行われ、平成19年2月14日には、尋問結果を踏まえた最終準備書面を提出して審理を終え、その日に判決の言い渡し日が指定されることになっていました。
 その矢先、1月29日付で労働保険審査会が、平川さんの転倒の原因はそれ以前の長時間労働により一度目の意識消失は一過性脳虚血発作を起こし、二度目の意識消失で脳梗塞を発症するに至ったと判断して、平川さんの転倒は労働災害であると認定しました。

4 教訓
 私が、この結果を聞いたのは、ちょうど、別の過労死の裁判の尋問中でした。事務所から携帯にメールが入り、休憩時間に何気なしにメールをみたところ、思わぬ吉報に心の中で叫び声を挙げそうな程でした。平川さんが倒れて丸8年の月日が経過し、労災認定の判断をする上では不可欠の何が原因で倒れたのかの資料が十分ないなかで、正当な判断を受けることが出来るのか、相談を受けた最初のころから、不安を抱きながらの事件だっただけに喜びもひとしおでした。「あきらめたらあかん」の一言が、ずっと頭にこびりついています。
 ただ、このような認定が出ても、日々体のあちこちの痛みが治まることのない平川さんの体は元には戻りません。再発の防止と、会社の責任追及を求めて、近日中に会社に対する損害賠償請求の提訴をすることになっています。
 弁護団は、岩城穣弁護士、中筋利朗弁護士です。

弁護士 上出恭子

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第22号(2007/8/1発行)より転載

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