事務所ニュース「いずみ」

弁護士活動日誌

再度の執行猶予

 静かな法廷に裁判官の声が響いた。
 「被告人を懲役3ヶ月に処する。但しこの刑の確定の日より5年間刑の執行を猶予する。執行猶予の期間中保護監察に付する」。
 Aさんに対する酒気帯運転(道路交通法違反被告事件)についての判決の宣告である。Aさんはじっと裁判官を見つめている。  執行猶予がついて法廷にはほっとした雰囲気が漂った。
 それもそのはずである。私はAさんには実刑判決を覚悟しておいてほしいと言っていたのだ。なぜならばAさんはある罪で懲役1年6ヶ月、執行猶予3年の判決を受け執行猶予期間中に本件で起訴されたからである。今回起訴された酒気帯運転(道交法違反)で実刑判決を受けると法律上当然に現在の執行猶予も取り消され、今回の実刑判決と執行猶予を取り消された懲役一年六ヶ月とあわせた刑に服さなければならない。絶対絶命のピンチである。
 Aさんは51歳の塗装工である。働き者で仕事は熱心で真面目である。ところが、酒を飲むとどうもいけない。つい、ミスが大きくなったのである。
 Aさんは同種の罪である酒気帯運転で2回の罰金を含む前科が7件もあり、そのうちの1件は実刑判決である。おまけに右にも述べたように執行猶予期間中の本件犯行である。弁護人としては最大の努力をしつつも引導を渡さなければならない状態であったのだ。
 加えて、重大犯罪がないとは言え、度重なる事件でAさんは奥さんから情状証人に立つことを拒否された。
 裁判は情状証人抜きの被告人質問だけで結審となった。
 Aさんは執行猶予中の犯罪と今回起訴された犯罪とは異質のものであり、大丈夫ではないかと思っていたが、裁判を受けるなかで厳しさを実感し、奥さんに情状証人に立ってほしいと懇請した。私も奥さんに頼んだ。こんななかで奥さんが証人として立ってくれることになった。判決宣告の期日に私は事情を述べて公判を再開してもらい、次の期日に奥さんに情状証人としてAさんの人柄、仕事や家庭では真面目なこと、妻として今後はAさんを十分に監視して行きたい旨を証言してもらった。またAさんが第1回公判で裁判官に自動車を手ばなすという約束も既に実行したことも立証した。こんななかで、Aさんは九死に一生を得るたとえのとおり当初に書いたようにまさにぎりぎりのところで再度の執行猶予付きの判決を得たのである。
 私はよかったと思うとともに、Aさんが折角得たチャンスをなんとしても更生に役立ててほしいという思いで一ぱいであった。

弁護士 蒲田豊彦

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第12号(2001/9/1発行)より転載

ページの先頭へ戻る