事務所ニュース「いずみ」

弁護士活動日誌

ある交通事故死事件

一、Mさんは平成4年7月、最愛の息子A君(未成年)を交通事故で失った。
 事故の態様はA君が無免許でヘルメットを着用せずに一方通行の道路をバイクに乗って逆行し、交差点で飲酒運転をしてきた乗用車に衝突し死亡したというものであった。最大の争点は信号機がどちらにとって青色であったかであった。死人に口なしで乗用車の運転手は対面信号が青色であったと主張した。
 果せるかな、自賠責保険(強制保険)はA君が赤信号で交差点に侵入したとして重過失減額として支払いの最高限度額の3,000万円から30パーセントを差し引いた2,100万円しか支払わなかった。

二、MさんはA君の2,100万円 を超える損害につき訴訟を提起するかどうか迷った。被害者救済の観点に立つ自賠責保険さえ重過失減額の考え方を適用したからである。Mさんの話ではA君の後ろから同じくバイクで走行していたA君の友人の青年が、「A君が青だった」と言っているとのことである。しかし、その青年は警察の調べでは事情があって事故を目撃していないと供述している。
 Mさんは迷いに迷って時効寸前に加害車の運転手と加害車の保有者を被告として訴訟を提起した。

三、私は青年の住所を調べてその青年に訴訟を決意した経過を説明し、証人に立ってほしいと頼んだ。
 青年は勇気をもって法廷で警察での供述は事実に反し、自分は事故を目撃しており、A君が交差点に入ったときは信号が青色であったと証言した。
 第一審判決は青年の証言を採用し、加害者の青で交差点に侵入した旨の供述(証言)を排してMさんの請求を認容した(但し、A君の過失を3割として過失相殺した)。

四、被告らが控訴し、Mさんも過失相殺の割合などを不服として控訴した。
 控訴審(大阪高等裁判所)は新たな証人調べをせず、信号がA君と加害者とどちらにとって青であったかが判然としないとして第一審の判決を取り消し、Mさんの加害者に対する請求を棄却し、加害車の保有者に対する請求を認容した(過失相殺を3割から2割としてMさんに有利に変更した)。
 控訴審が右の結論を出したのは裁判上の約束ごとである「挙証責任」の分配の考え方があるからである。すなわち、Mさんの加害者(運転手)に対する請求は民法709条の不法行為に基づく請求で、Mさんに信号 がA君から見て青であったことを立証(挙証)する責任があり、保有者に対する請求は自賠法三条に基づく請求で挙証責任が転換されて保有者が加害者の進行する信号が青であったと積極的に立証ができなかったことからMさんが保有者に対して勝訴したのである。
 いずれにしろ、ぎりぎりの勝訴であったが、他方、最後まで諦めてはいけないと思った事件であった。

弁護士 蒲田豊彦

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第7号(1998/2/10発行)より転載

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