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弁護士活動日誌

高層建物による日照権侵害に抗して

一、平成8年6月、大阪市生野区桃谷2丁目の住民有志の代表が「私たちの住んでいる建物と1、2メートルしか離れていない南側に15階建ての高層マンションが建つ。、何とかならないか」と相談に来られた。聞いてみると右の高層マンション予定地には従前は3階建ての鉄筋の建物が建っていたが日照は十分に享受できていたというのである。これは典型的な日照権侵害の事件である。右の相談のなかで岩城弁護士と私と堺総合法律事務所の山名弁護士の三名で弁護団を結成し、住民も日照権を阻害される高層マンションの北側に居住する住民はもちろん、高層マンションの南側、東側、西側の住民らも含めて、日照権や住環境を守っていこうと確認し、「桃谷高層マンション建設反対住民の会」(61世帯が参加)を結成し闘っていくことになった。
 相手は兼松江商の関連会社である兼松都市開発が施主、長谷工コーポレーションが工事施工者であり相手方に不足はない。

二、桃谷二丁目はJRの環状線桃谷駅から環状の外に向かって徒歩で10分のところに位置し低層の住戸が立ち並ぶ庶民の街である。
 この地域は住居地域であるが容積率が300パーセントで日影規制がない。兼松や長谷工はここに目を付け、まわりの住戸とは全く違和感のある15階建てのマンションを建てようというのである。
 住民の会と弁護団は議論のうえで、大きな反対運動の展開と日照阻害を受ける北側住民22人を債権者(申立人)として高層マンション建築差止の仮処分を申請して闘うことを決めた。
 申立人以外の住民も自らの事件として仮処分を支えていくこと(私たちはこれらの人々を「準申立人」と呼んだ)も確認された。

三、仮処分は平成8年9月19日、大阪地方裁判所に提訴された。債務者(相手方)は兼松と長谷工である。
 裁判所での毎回の審尋期日には住民側が多数傍聴し、相手方や裁判所に住民パワーを大きく示した。

四、地元でも、「住民の会」は、桃谷2丁目を中心に「高層マンション建設反対」の横断幕やポスターを張りめぐらしたりして反対運動を盛り上げた。最も盛り上がったのは、私たち弁護団も参加した桃谷公園での住民大会とその後のデモ行進である。デモ行進は各自が鉢巻きやゼッケンをつけ、お年寄りや子どもまでが参加して、表通りや路地裏まで練り歩いたのである。みんな最初は恥ずかしそうにしていたが、だんだんノッてきて、「えーっ、もう終わり?」という声が出たくらいであった。

五、こういった反対運動や仮処分申請をバックに、弁護団は住民らと相談しながら、仮処分期日の間に相手方弁護士と多数回に亘り交渉を行った。
 しかし相手方は、住民側の最大の要求である、マンションの階数を下げることには頑として応じようとしなかった。そんな中で住民側は、交渉を打ち切って仮処分決定まで突き進むのか、それとも階数を下げさせることは断念し、それ以外の部分で少しでも譲歩を勝ち取るのか、の岐路に立たされた。「住民の会」は総会を開き、住民投票を行った。わずかな差で、和解路線が選択された。まさに「苦渋の選択」であったが、民主的な手続きの大切さを改めて感じた。

六 住民たちはこの方針のもとに結束を強め、弁護団は全力で示談交渉に取り組んだ。  そしてその中で、
(1)高層マンションの位置を南側へ1.8メートル移動すること
(2)駐車場の数を減らし地上二階の駐車場を一階とすること
(3)住民のプライバシー保護のため、目隠しなどの方法をとること
(4)境界線上に植栽をすること
(5)相当額の慰籍料を支払うこと、等を約束させたのである。

七、そして、平成9年4月28日、住民側は北側の本来の債権者(申立人)に南側、東側、西側の住民21人も「利害関係人」として和解に参加して、前述した内容を骨子とする勝利的な裁判上の和解となったのである。
 その後の建築工事についての「工事協定」は、弁護団の助言のもとに、住民自らが交渉し妥結した。

八 相談から解決までの約10ヶ月の闘いは、大変だったがとても充実したものであった。住民のみなさんの団結と行動力に心から敬意を表するとともに、弁護士として多くのことを学ばせていただいた事件であった。

弁護士 蒲田豊彦

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第6号(1997/9/10発行)より転載

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