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弁護士活動日誌

借家人の権利を抹殺する高裁判決

 先般、大阪市中央区内の借家で商売をしている依頼者の方への建物明渡請求控訴事件で、大阪高等裁判所は第一審の判決を覆して「1,000万円の支払を受けるのと引換えに建物(建物の1階の賃借部分)を明け渡せ」という判決を下した。  この事案は次のとおりである。
 すなわち、依頼者が昭和56年に新築早々の2階建鉄骨造りの建物の1階部分を新築と同時に賃借して商売をしてきていた。ところが、家主が平成2年12月になって相続税対 策(建物を借金で立て替えておくと家主が死亡しても相続税が少なくてすむとの理由)と土地の有効利用のため5階建の建物に立て替え、別居している長男一家と一緒に住みたい ということを理由に賃貸借契約を解約したが、この解約について全く正当事由がないとして明渡しを拒否した依頼者を被告として訴訟を提起してきたのである。
 周知のように平成3年に借地法、借家法が廃止され、借地人や借家人の権利を大きく後退させる内容の借地借家法が制定されたが、新法の制定より以前の賃貸借契約関係には契 約の解約などについては旧法が適用されることになっている。すなわち、右の事件では家主の解約については「建物の賃貸借の解約の申入れは建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として、又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければすることができない」という新法28条の適用を受けるのではなく、「建物ノ賃貸人ハ自ラ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合ニ非サレハ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得ス」(旧借家法第1条の2)の規定の適用を受けるケースである。したがって右の件は、借家人の言い分である家主の解約には正当な事由がないケースであり、家主の明渡しの訴訟はかなり無理があると考えられた事件であった。げんに、前述したように第一審の大阪地方裁判所では原告の請求は棄却され、借家人の勝訴となっていたのである。
 一般に裁判所は上級の裁判所になるほど保守的で庶民感覚との乖離が見られるといわれている。本件は大阪高等裁判所が借地法、借家法の改悪(旧法を廃止し地主、家主により有利な新法を制定)の流れに引きずられて旧法下でも時々判例としてあらわれていた「一定の立退料と引換えに賃借物を明け渡せ」という手法を使って、旧法下の賃貸借契約関係には旧法を適用するという旧借家法附則第11条の規定を無視して前記のような逆転判決を下したのである。私は、和解手続のなかでの担当裁判官の発想や発言を聞くなかで、このような判決もあり得ると警戒し、依頼者と何度も打合せをし、準備書面を提出したが、大阪高裁は借家人という弱い立場にある者の権利を踏みにじる判決を下したのである。犯罪的とも言える判決であり、許すことができない判決であると思うのである。

弁護士 蒲田豊彦

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第4号(1996/10/18発行)より転載

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