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弁護士活動日誌

「競争」よりも「連携」を──「特定社会保険労務士」志願者への特別講義を経験して──

1 この6月、現役の社会保険労務士の人たち50人に「特別講義」をする機会があった。これまで社労士には労働関係に関する書類作成や相談活動しか認められていなかったが、一定の研修を受けて試験に合格した社労士(特定社労士)に、都道府県労働委員会での「個別あっせん」や、民間紛争解決機関(ADR)での手続(ただし経済的利益60万円以下の事案に限られ、これを超える場合は弁護士との共同代理が必要)について、2007年4月から代理権が認められることになった。これらの手続が行われている場合には、手続外での交渉や示談もできる。その「特定社労士」試験の受験者を対象に全国一斉に行われた「特別研修」(全国社会保険労務士連合会主催)で、労働者側弁護士という立場で講義をさせていただくことになったのである。
 講義は、3日間で延べ15時間に及ぶハードなもので、準備も大変だったし、現役の社労士の方に講義するということで、かなり緊張もしたが、受講者の皆さんは本当に真剣で、質問や討論も活発になされ、居眠りや私語をする人はまったくいなかった。

2 これまで「代理業務」は、ごく一部の例外を除いて弁護士が独占してきたが、司法制度改革審議会の意見書(2001年6月)の中で、法曹人口の大幅な拡大などとともに、司法書士、弁理士、税理士、社会保険労務士、土地家屋調査士といった「隣接法律専門職種の活用」がうたわれたことから、これらの職種に限定的な代理権が次々と認められつつある。今回の「特定社労士」への代理権付与もその一環である。

3 代理業務を行う「特定社労士」の登場は、一面では弁護士にとっての「ライバル」の出現といえる。現時点では経済的利益が60万円までの事件という限定がついているが、いずれ拡大されていく可能性もある。
 しかし、例えば、各地の都道府県労働局や労働基準監督署に設置されている総合労働相談コーナーに寄せられた相談は、2005年度の1年間で90万件に及ぶが、そのうち、あっせん申請の受理件数はわずか7000件である。また、全国の裁判所に持ち込まれた訴訟はわずか2400件にとどまる。圧倒的多数の労働者は、せいぜい「相談」にとどまり、自ら権利救済を求めてアクションを起こせるのは、そのごく一部にすぎないのである。このような状況の中で、特定社労士が、限定的とはいえ個別あっせん等の代理を行えるようになることは、労働者の救済という点では積極的に評価してよいと思う。また、使用者側につく社労士も含めて、コンプライアンス(法令遵守)の点でも評価できるであろう。

4 もっとも、率直にいって不安もある。憲法や基本的人権について十分に学び、厳しい論文試験に合格し、司法修習を終了した弁護士が代理人になる場合に比べて、依頼者である労働者が不利になることはないか。「労務屋」のような社労士が幅をきかすようにならないか。
 しかし、ここは積極的にとらえたい。敵視したり非難するのではなく、権利救済と法令遵守という最大の目的に向かって、ともに切磋琢磨し、必要に応じて連携していくことが今求められているのではないか。熱心に講義を聞いてくれる社労士の皆さんの熱いまなざしを感じながら、そんなことを考えた次第である。

弁護士 岩城 穣

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第20号(2006/8/8発行)より転載

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