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寄稿

生命生物人間研究事務所と苗さんの過労死裁判支援

 のっけから私事で恐縮です。私が京都工芸繊維大学を定年退職したのは6年前のことです。退職したらあれもやりたいこれもやりたい、と思いつつ定年を迎えました。生命の基本原理を探っていきたい、生命に関する科学的知識を人びとにひろめたい、科学者として社会の平和的進歩に貢献したい、などなど、それまで忙しさにかまけてできなかったことを自由にやりたいと思っていました。生命生物人間研究事務所はこんな夢を追いかける拠点として定年前から構想していたものです。
 研究事務所といっても私一人で事務員がいるわけでなく、自宅マンションの一室をそれに当てているので、傍から見たら個人の書斎にすぎません。それなのに何故仰々しく研究事務所を標榜するのか。それは、活動を社会とつなげる装置としては書斎であってはいけない、事務所でなければならない、と考えたからです。
 この度、あべの総合法律事務所の岩城・上出弁護士から「苗さんの過労死裁判を支援する会」の会長就任の要請を受けて、研究事務所の大切な仕事の一つとして引き受けることにしました。この裁判に関わるきっかけは、苗さんの奥さんが起した先の大阪地方裁判所の裁判で、たまたま苗さんの研究ノートの記載内容についての意見書を書いたことです。苗さんは、田辺製薬の研究所で新しい抗癌剤を創りだす目的でテロメラーゼ遺伝子の研究を行っていました。この研究は私の専門分野である分子生物学の範疇にありましたので、実験ノートを読んで、当時、苗さんがどんな実験をどのように進行させていたのか、第三者の立場から解説することができました。
 実験ノートから苗さんが、ハードな実験をてきぱきとこなすきわめて几帳面な性格の持ち主であることがよくわかりました。実験計画も適切で、テロメラーゼ遺伝子の解析も終了し、さあこれから、という時に過労で倒れてしまいました。淀川労働基準監督署や大阪地方裁判所がひたすら形式的な実験室内滞在時間だけを盾に取って、苗さんの死を過労死と認めなかったことは明らかに不当です。研究者の抱える研究上の精神的重圧をことさら軽んじ、研究者の活動を表面的な作業行為だけに歪曲した先の裁判所の判決は到底受け入れることができません。
 苗さんの過労死裁判では、生命生物人間研究事務所を挙げて、といっても私一人しかいませんが、支援したいと思います。どうぞよろしくお願いします。

生命生物人間研究事務所 主宰 宗川 吉汪

生命生物人間研究事務所 主宰 宗川 吉汪氏のご紹介

 もし、学生時代にこんなに素敵な先生に理科を教わっていたら、きっと、わたしの人生は随分ちがった方向に進んでいたかもしれない、と思わせるのが、宗川先生です。
 過労死をされた苗さんが、当時、最先端の研究をされていたということは分かっても、その具体的な内容や、そもそも理系研究者の仕事がどのようなものなのかが皆目見当つかない中で、縁合ってお知り合いになることの出来た宗川先生は、とても分かりやすく、私達の質問に丁寧に答えてくださいました。「科学者」という言葉にはその響きだけで、なにかロマンを感じさせるものがありますが、宗川先生は、まさに心のこもった「科学者」です。苗さんの裁判はこれから、大阪高等裁判所での審理が本格化していきますが、裁判所に「科学者」の過重な業務について、真の理解が得られるよう、引き続き宗川先生にはご尽力いただきたいと思っています。

弁護士 上出恭子

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第26号(2009/8/1発行)より転載

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