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寄稿

理屈と情熱をブレンド

 「先生、このケースは絶対に労災だと思うでしょう」
 有無を言わさず強引だ。お正月休みの1月2日に自宅のお風呂場で転倒して頚椎を損傷した事故が労災となるかどうかで争われたH氏事件の資料を見て、岩城弁護士が私に意見を求めてこられたときの会話である。
 今だから話せるが、最初にこの事件の資料を見て直感的に思ったのは、確かに猛烈に働いたことは誰の目にも明らかだが、これを医学的に労災と認めさせるのは相当に難しいのではないかということであった。
 しかし、私の煮えきらぬ態度をあらかじめ見抜いているのか、岩城弁護士は、これは労災に違いないとの強烈なメッセージを私に送ってくる。その熱意に私は負ける。
 「ええ、まあ、そうですね。やっぱり労災でしょうね」
 思わず、本心ではない言葉が口から出る。
 岩城弁護士は、人をほめることでやる気を起こさせる名人だ。
 見る人が見れば、医学的には稚拙極まりない私の意見書であっても、「先生の文章にはハートがある」などと持ち上げられれば、背中がこそばくはなっても悪い気はしない。
 振り返れば、平成13年に書いた、23歳で過労死されたTさんというデザイナーの意見書が最初だった。このときは、医学的に完璧なものをと思い、100 編以上の文献を読んだ。徹底して理屈を重視した。いちおう完成させて提出した。しかし、ご家族は納得されない。何が足らないのか。Tさんのお母さんからの手紙にそれはあった。「医学的にどうであっても、娘は過労死です」とそこには記されてあった。
 それ以来、被災者の気持ちをできる限り想像するようになった。生死を賭けてまでなぜ働いたのか、何を思っていたのか、その情景が脳裏に浮かんでくるまで時間をかけて待つ。たとえばTさんの場合なら、終電を待っている深夜の南海難波駅のプラットホームが舞台だ。過労死寸前で体は疲れている。しかし、素晴らしいデザインの広告が目に入った。私もいつかあのような広告を描いてみたい。電車を待ちながらTさんはそう思った。私はそう想像する。
 できるだけ医学的な理屈は保ちたい。しかし被災者の情熱、ご家族の思いは最大限取り入れたい。理屈と情熱をうまくブレンドした意見書ができないものか。そこに正義というフレーバーを添えれば最高だ。
 無味乾燥な医学論文も、被災者、ご家族の気持ちを救う手段と思えば、値打ちが増す。そのような、およそ医師らしからぬ目論見を持ちつつ、今日も意見書を書いている。

耳原高石診療所 所長 松葉 和己

耳原高石診療所 所長 松葉 和己氏のご紹介

 松葉先生は、耳原総合病院グループの耳原高石診療所の所長をされ、日々訪れるたくさんの患者の診察・治療に大変多忙なお医者さんである。
 土川事件(23歳女性デザイナーの過労死事件)で意見書をお願いしたのをきっかけに、その後数年の間に約10件もの意見書を書いていただいた。最近は、交通事故の後遺障害に関わる診察や意見書作成もお願いするなど、本当にありがたく思っている。
 「ほぉ、ほぉ」と言いながらじっくりと当事者・遺族や私たち弁護団の話に耳を傾けて下さり、期限どおりに下さった意見書は、働き過ぎて倒れた人の目線に立ち、時にはルポライターのように被災者の心情や情景を描写し、最新の医学文献を引用しながら、倒れるまでのプロセス・機序をわかりやすく解明している。まさに、先生の豊かな人間性と高度の専門性が結合している。
 そんな先生の意見書は、遺族のみならず私たち弁護団をも限りなく励ましてくれる。私たち弁護士も、法律の分野で先生のような専門家になれればと思う。
 先生にはご迷惑と思うが、今後も当事務所と仲良く(?)お付き合い下さい。木津田さんは、欠陥住宅関西ネットと神戸ネットに参加し、関西ネットの中心メンバーの一人であるが、欠陥住宅全国ネットの大会でも報告や講師をされるなど、今や全国的な存在である。
 気さくで明るく、ヒューマンなハートをお持ちのうえ、仕事が早く、深夜にメールを出しても一瞬で返事が来る(人ごとじゃないけど、健康は大丈夫?)。
 数年前、建物に種々の欠陥があるうえ、住み始めると奥さんがシックハウス症候群を発症した事件でお世話になって以降、いくつかの欠陥住宅や日照権の事件でご協力をいただいている。昨年9月、ある産婦人科の病院の増築をめぐる欠陥建物事件で半日にわたる現地調査に同行したが、木津田さんは疲れ知らずで、こっちでコンクリートをハンマーでコンコン叩いたと思えば、あっちで土を掘り返し、屋上に上がっては柵をひょいと乗り越えてタタタと走り看板の上に上るなど、まるで忍者みたいで惚れ惚れしてしまった。
 これからもいろいろな無理難題をお願いすると思うが、末永くお付き合いをお願いしたい。

弁護士 岩城 穣

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第24号(2008/7/1発行)より転載

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