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寄稿

ビル風の防止 早い時期での対応が重要

 中百舌鳥の風害の裁判で原告側の証人を経験させていただきましたが、裁判になる前に自分自身がこの建物のビル風についての検討を、もし事業者から依頼されていたらどうなったかを想像するとちょっと肌寒い感じがします。風洞実験か詳細な数値計算は行ったとは思いますが、はたして風害が発生しないような対策が十分できたかは疑問です。
 問題は相談を受けるタイミングにあります。
 建物の事業計画が固まり、設計がほぼ出来上がっている段階で相談を受けた場合、対策の選択肢が少なく、予測結果を活かした対策が実施できる状況にならないことが多いのです。このようなことに対して、私どもは、事業計画の早い時期(まだ、建物の設計を変更できる時期)に風でどのような問題が発生するか、そしてどのように対応策を考えるかを検討する重要性を事業主や設計家に訴えていくしかありませんが、風の専門家だけの声ではあまりにも微力で事業主や設計者の意識を変えることは容易ではありません。
 この面で今回の判決がいい方向で影響を及ぼしてほしいと思っています。東京地裁で扱われた南大沢の事件も同様と思いますが、10年程度のスパンで地域の発展をみますと、行政や地元住民を含む土地所有者(事業主なども含む)の間で、これまで街づくりをどうしてきたか、そしてこれからどうして行こうとするのかの共有のコンセプトがはっきりみえないことが、風害を含む環境問題の本質的解決をいっそう困難にしていると思います。
 風の吹き方は、地面の下から伝わってくる地震と違って、直近の建物や周辺の建物によって変わります。極端に言えば、風を防いでいた隣の建物や樹木が無くなっただけでも影響が出ます。
 地域の街づくりのような問題は大きすぎるのか、学者や建築家が討論会などで理想論を語ることは見聞きしますが、具体的な実施例はほとんどが示されていないような気がしております。自分を含めて研究者やエンジニアは、おそらく、結果のひとつひとつに白黒を明確につけていくというより、ステップバイステップでより確かな事実を受け入れていく世界にいるのではないかと思っています。特に自然の風を相手にしている場合はなおさら謙虚にならざるを得ません。
 原告、被告に分かれる裁判では、なかなか第三者としてみられないこともあり、つらい面もありますが、風の専門家としての社会的役割を痛切に認識させられました。微力ですが、後輩達にこの経験を伝えていきたいと思います。

(株)風環境リサーチ  代表取締役社長 工学博士 藤井邦雄

(株)風環境リサーチ  代表取締役社長 工学博士 藤井邦雄氏のご紹介

 藤井さんには、当事務所の3人の弁護士が弁護団に加わって提訴した、堺市なかもずのマンション風害(ビル風)裁判で、鑑定意見書を書いていただき、また法廷での証言もしていただきました。
 当時勤務されていた風工学研究所を上出弁護士と2人で突然訪問してのお願いであったにもかかわらず、協力を快諾して下さり、その後藤井さんは自ら「風環境リサーチ」を設立されました。また、鑑定意見書も法廷での証言も、大変ていねいでわかりやすく、藤井さんの誠実なお人柄を窺わせるものでした。
 この裁判で、1審、2審とも、風環境の重要さを説き、ビル風被害を救済する歴史的な勝訴判決を得ることができたのは、藤井さんのご協力あってこそでした。改めて御礼申し上げます。
 これからも、「心優しい風博士」としてご活躍されることを願っています。
 なお、この風害事件の1審、2審判決や新聞報道、蒲田弁護士の解説などを、当事務所のホームページ及び本紙16号に掲載しています。

弁護士 岩城 穣

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第17号(2004/8/1発行)より転載

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