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寄稿

3%のディープインパクト

「ディ―プインパクト」―かつての名馬の名前ではない。いま、学校の教師は、保護者からの正当な要望や指摘を受けながら、自らの教育活動のあり方を反省したり工夫をこらすのは当然だが、それをはるかに超えた無理難題要求(イチャモン)の前に呆然と立ちつくし、時として心病んでいくことも珍しくはなくなった。その際に受けるのが「辛い心理的な衝撃(ディ―プなインパクト)」なのである。

 東京都教職員互助会・三楽病院の精神神経科の調査によると、2011年度に当院を初めて受診した248人の教師に対する原因理由(精神疾患の原因あるいは憎悪に関連する主要因を一つ)を尋ねたところ「生徒指導に悩んで」が35%、「同僚・管理職との人間関係」が26%、「学習指導」の9%に対して「保護者との関係に悩んで」は、わずかに3%であったという。この病院では、2003年にも同じ調査をしているが、その際に「保護者」要因は6%であったというから、やや減少傾向にあるものの、一見すると大きな割合を占めてはいない。

 しかしこの3%によって、通院治療ではなく病気休暇や休職などの休業に入っていく率がダントツに高いというデータが加わる。例えば、難しくなる一方の生徒との摩擦や、職場の人間関係に悩んで受診したとしても、投薬治療やカウンセリングを受けながら、なんとか職務を継続させていくことが多いが、「保護者対応に悩んで」病院を訪れた教師の場合は、相当に深刻な事態に置かれている場合が多いということである。つまり、それだけ保護者との「クレームトラブル」はインパクトが強く、同時にダメージも大きいということを意味している。

 よく「子どもとの関係が良好であれば、そして保護者からの信頼を勝ち得ていればクレームトラブルは起きない」と語られる。しかし、それがどれほどいまの教師を苦しめていることか。相次ぐ要求や批判にさらされた時に、クレームを処理することよりも、この先入観が「教師失格」の烙印を押すかのようにプレッシャーとなることで、さらに追い込まれていくことが多い。

 私は10年前から「イチャモンは時と場所を選ばない」という小野田の定理を示してきた。クレームトラブルは起きるときには起きるのだ。鬼瓦権造先生(※イメージから来る仮名)の前では、押しつぶされるように沈黙させられていた保護者・門来有代(※同)の不満が、井伊康司先生(※同)や三釜恵留先生(※同)のところで激しく爆発することもかなり多い。「怒りの導火線の着火地点と爆発地点は違う」ことも往々にしてある。だからこそ、保護者からのクレームトラブルは、個々の教師の責任だけにせず、学校全体で受け止め対応していくことが必要なのである。

大阪大学大学院教授 小野田 正利

大阪大学大学院教授 小野田 正利氏のご紹介

小野田先生は、大阪大学大学院人間科学研究科教授を務められ、学校現場に元気と活力を!をモットーに教育現場との交流を積極的に行い、「学校の今とこれから」を事実に即してわかりやすく取り上げる研究・講演活動をしておられ、多数の書籍や論文、雑誌記事も執筆しておられます。 これらの経歴を聴くと、堅い人物を想像してしまいそうですが、小野田先生は柔和で人懐こい笑顔が印象的な先生で、一度お話ししただけでも、もう何年も前から支えていただいていたかのような安心感と絶対的な信頼感を与えて下さる偉大な先生です。過労死問題にも造詣が深く、過労死防止基本法制定への取組みにも賛同人に名を連ねて下さっています。「大阪過労死を考える家族の会」の一泊学習交流会にも毎年ご参加下さり、唐草模様のスーツでユーモアたっぷりに講演などしていただいています。家族の会にも小野田先生のファンが多いことでしょう。 私が今回、弁護士活動日誌に書いた事案でも、学校の対応を鋭く分析し批判する強力な意見書を書いて下さいました。裁判の勝訴的和解の力となったことはもちろん、原告さん本人にとっても、小野田先生の意見書は力強い理解者の意見として非常に勇気付けられるものだったのではないでしょうか。 今後も末永く勉強させていただければ幸いです。

弁護士 瓦井剛司

あべの総合法律事務所ニュース いずみ第35号(2014/1/1発行)より転載

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